マッチ・ポンプ

 

 この話は実際にあった事だが、ある中学校の生徒会の会長の話だ。

彼は、わりかしと人気があって、生徒会の会長に選挙で選ばれたんだが、近頃、どうも人気が落ちてきた。

陰で悪口言ってる奴が多いらしい。

生徒会の会長なんてのは政治家みたいなもんだから、悪口言われる位なら、かえって大物になって来たと思って、反対に喜ばなけりゃあいけないんだが、(笑声)  気が小さいから、イライラしてきたんだろう。

そこで、何とかして、みんなの人気を集めてやろうと考えた。

さあ、どうしたらいいかな。

え、一番嫌われ者の先生にケンカ売ってなぐりゃあいい。(笑声)

生徒会の会長としちゃあそりゃ駄目だ。

ワル達からの人気は上がっても、先生達や一般生徒達やPTAからの信用は、ガタ落ちで、バカにされるだけだ。

誰か分からないかな。

そうだ。今、誰か言ったな。

学校に火を付けて火事にして、次に自分が第一発見者になって、火を消し止める。(笑声)

うまく行くと、消防署から表彰される。

こう言うのを、マッチ・ポンプって言うんだけれど、これを、実際にやったんだ。

事もあろうに、学校に放火して、次に第一発見者として、大騒ぎして、急いで消火する。

よかった、よかった、君が見つけてくれたから大火事にならずに済んだ、と行けばよかったが、天網恢々疎にして漏らさず、見ていた人がいて「御用」となって放火犯で「少年院行き」だ。(笑声)

 

 ちょっと、お話変わって、国会議員の事なんだが、昔、田中彰治って言う衆議院議員がいた。

田中正造じゃないよ。

田中正造は、公害問題に必死で取り組んで、周りからキチガイと言われ、気の毒な農民の為に財産を全部使い果たし、最後には乞食のようになって死んだ偉い人だ。

所が、田中彰治は全く反対、長い間、衆議院の決算委員長をつとめ、恐喝したり、強引にワイロを取り上げたり、とうとう最後には議員を辞めさせられちゃった男だ。

この男が、政界のマッチ・ポンプって言われた。

別に国会議事堂に放火するって意味じゃぁないよ。(笑声)

大きい会社の、ちょっとしたミスを見つけて、あちらこちらに噂をたてる。

会社が困って、お金を持って来たら、噂の広がるのを防ぐ。

これが政界のマッチ・ポンプ、つまり、マッチで問題に火を付けて、お金を貰ったら今度はポンプで消しに回る。

その為に決算委院長と言う役職を利用した。

でも、最後には、恐喝罪でつかまっちゃったけどね。

 

 所で、先生の言いたいのは、これよりも、更に20年位前、吉田内閣の頃、与党が僅かに野党を上回って、ギリギリの過半数の時だ。

この時には、決算委員会の与野党の割合は委員長を抜くと半々、委員長の田中彰治が与党、つまり吉田派で、ギリギリで与党が勝ってたんだ。

それなのに、ある日、突然この田中委員長が吉田に反旗を翻した。

そうなると、決算委員会は野党が優勢になって、メチャメチャに政府の批判を始めた。

これがきっかけで、長い間続いた吉田内閣は総崩れになった。

この時はまさに、田中彰治は時の人だったね。

所が、マッチ・ポンプ事件で恐喝罪になった時、この、吉田内閣追い落とし事件にふれてある新聞はといったら、一つも無かった。

こりゃあ何と言ってもおかしいね。

つまり、権力側が情報操作をしたとしか考えられない。

吉田内閣追い落とし事件で、権力側から追い出された連中が大勢いたんだろう。

彼らにとっては、憎っくきは決算委員長の田中彰治、いつか、機会があったら、ひどい目に合わしてやろうと狙ってたんだろう。

それで、自分達が権力を持ち、万全の体制を整えて、新聞社には、詳しい事書くと後でひどい目に会うぞ、と根回しをしておいて、追い落としをしたんだろうね。

 

 放火犯の生徒会長から、権力の情報操作まで、マッチ・ポンプの話があっちこっち行ったが、考えて見ると、マッチだなんて、古臭い物になっちゃったな。

今は、台所にもマッチなんて無い。

自動で火が付くようになってる。

タバコも使い捨てのライターだし、今の子供達はマッチが使えない者が、けっこういるんじゃあないかな。

仏壇のお線香もライターでつける時代だ。

その内に、仏壇の前に行っておじぎすると、自動的に火の付いてる線香が、灰の中から出て来るようになるかも知れないぞ。

まるで、自動式水洗トイレみたいだな。(笑声)

 

<脱線千一夜 第2話>  


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