本とりあげと態度
この間、ある組で授業していたら、男の子が一人、机の中からソーツと本を出して読んでる。
よーし、現場つかまえてやろうと、授業やりながら後から何となく近づいていったら、奴さんすぐ気がついて、さっと机の中にしまった。
それでさっそく押し問答が始まったわけだ。
「今読んでたのはなんだ。出せ」
「何も読んでません。勉強してました」
「うそつけ。黄色い本だ。早く出せ」
「そんなの持ってません」
「いいから机の中のもの、全部出せ」
と言ってしつっこく 追求したら出したのがさっきの黄色い本だ。
でもマンガやバカげた小説じゃあなくって、コンピューターの参考書だ。
取り上げて、そのまま授業し終わって持って帰ろうとしたらやって来て
「さっきの本返してください」
「ダメダ、勉強についての本以外は持ってきたら取り上げだ」
「取り上げですか」
「そうだ、取り上げだ、返さない」
「僕がお金出して買ったのに取っちゃうなんて泥棒と同じだ、先生、ドロボー、ドロボー先生」(笑声)
驚いたことにとうとう泥棒にされちゃったよ。
職員室に持って帰ってきて、担任の先生に渡し、全部説明して、本人が反省したら返してくださいと言っといた。
本が本でコンピューターの参考書だからマンガと同じにはいかないからね。マンガだったら、即、ゴミ箱だ。
所で君達これ聞いてどう思う? 何? 先生が悪い? ドロボウは先生だって!(笑声)
バカ言っちゃいけない、規則があるんだ。
それに授業中にそんな事をしていたら、勉強が出来なくなっちゃう。
大事な事は、君達も先生も人間だ。
先生の事をテレビだと思っていたら大間違いだぞ。君達の態度で先生も変わるんだ。
たとえば「出せ!」と言われた時に
「スミマセン。ゴメンナサイ」
と言ってベロでも出してから頭下げれば、軽くひっぱたかれる位で
「時間中はきちんとやれい!」
と言われ、後で職員室に謝りに行けば
「なんだ、お前はコンピューター出来るのか。じゃあ、こんな問題できるかよ」
だなんて出された問題やってみて
「お前なかなかやるな。でも学校に本持ってきたり、時間中に内職するのはやめろよ」
とか言った塩梅に、逆に自分をコンピューターの天才として、売り込む事が出来るんだ。
つまり、わざわいを転じて福となす、本を取られて怒られる代わりに
「あいつは、なかなかコンピューターが出来る。結構プログラムの組み方知ってるわい。やる気十分な奴だ」
と逆に信用されて、自分の点数を高くする事が出来るわけだ。
もう君達ぐらいになったら、うまく立ち回って、わざわい転じて福となす位の要領を身につけなけりゃあ駄目だ。
このような要領はオベッカなんかとは違って、人間と人間との潤滑油だ。
つまり自動車でいえばオイルで、どんなにいいエンジンで、いいガソリンでも、オイルが無けりゃあ焼け付いちゃう。
だから「先生、俺が金出して買った本取っちゃうなんて泥棒だ」なんて言ったら、この馬鹿野郎め、学校の規則を破り、更に授業中に内職して、先生に文句言うとは、正に、泥棒にも三分の理、こいつの方が泥棒だ。(笑声)
こんな泥棒野郎のテストは、きっと他人のを見て書いたカンニングに違いない、だから10点引いとこう。(笑声)
いやいや、その位じゃあ不足不足、カンニングなどしないで、一生懸命に勉強した子達の為に、通信簿を5でも1にしちゃおう。
それが教育者としての良心だ、なんてことになる。(笑声)
<脱線千一夜 第3話>
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