万引きビデオ
ある貸しビデオ屋さんで、万引きが多くてかなわない。
それが、近くの中学校の生徒なんだ。
その中学に連絡して、朝礼や学活の時、注意してもらったけれど駄目。どうしょうもないワルガキ共は、一種の気違いなんだ。
人間としての常識を持ち合わしていない。
他人の物は俺の物、俺の物は俺の物ってなわけだ。(笑声)
あんまりひどいんで、店の天井に何台もビデオカメラ仕掛けた。
そして、後から証拠になるように、録画しておく。
万引きの様子を編集して、おもしろおかしい解説入りで「ザ・万引き」ってビデオを作って貸し出しを始めた。(笑声)
これが、物凄い人気。
借りてくのは勿論その中学の生徒、あいつが万引きしてる、あいつもやってるぞ、と大騒ぎ。
さて、このように晒し物になった奴の中には、早速、あやまりに来た奴が大勢いた。
前に万引きしたビデオのお金払い、その「ザ・万引き」も買い取るから、やめてくれってな。
まあ、これが当たり前だよ。
だけど、中には子供もバカなら親もバカってんのがあって、「児童福祉法」や「少年法」に反するって、教育委員会に訴えた。(笑声)
悪い事すりゃあ、謝るのが先だろう。
謝りもしないし、万引きしたビデオも返さずに、相手のやる事がひどすぎるって、訴えるんだから、メチャメチャだ。
じゃあ、この訴えを聞いた教育委員会はなんて言ったと思う。
そうだよ。その通り「これはビデオ屋の方が悪い。その『ザ・万引き』のビデオは没収だ」(笑声)
みんなに笑われる様な教育委員会じゃあどうしょうもないな。
多分、バカガキの家のバカ親が、区会か都会の議員に頼んで、その議員が、教育委員会に命令したんだろう。
でも、このビデオ屋さんは中々骨のある人で、強硬に「生徒達が、やった悪い事は、当然、生徒が償うべきだ」と主張してるらしい。
メチャメチャな世の中に、このような正義漢がいて、大いに気を吐いているのは嬉しい。
今迄にも、何回も言ったが「泥棒にも三分の理」なんて言って、何やったって理屈はどうにでもつく。
勉強が出来なけりゃあ、先生の教え方が悪いと言って先生のせいにして、自分で努力しようとしない。
これがね。勉強じゃあなくって、運動なら、すぐに分かるんだがなあ。
跳び箱が跳べない。先生の指導が悪い。本来の俺は二十段位跳ぶ力があるはずだ。卓球が下手だ。先生の指導が悪い。本来の俺には日本選手権の実力を秘めてるんだ。(笑声)
それを引き出せないんだから、あの先生はヘボだ。なーんて考えるのは、いささか、頭が可笑しいな。
でも、こと勉強や生活一般に関すると、先生が悪い、親が悪い、社会が悪い。全く変なもんだ。
ある国じゃあ、子供だって何だって、万引きした者には、お前は悪くない、その指が悪いんだって、指を切っちゃう。
詐欺した者には、お前が詐欺したんじゃない。その口が詐欺をしたんだって、舌を切っちゃう。舌切り雀みたいだ。(笑声)
女に悪さした者には、お前は悪くない。お前の……(笑声) いや、結構そこ迄やってるらしいよ。
とにかく、日本は「子供」と「政治家のインチキ」には大甘なんだ。
「子供」に甘いってのは、将来「子供」にたかろうって考えてんだから、「子供」に見透かされてるんのさ。
まあ、この万引きビデオは面白そうだ。先生も借りてきて見たいよ。
でも、見たら、うちの学校の奴も万引きしてたなんてんじゃぁ、シャレになんねえよなあ。(笑声)
<脱線千一夜 第5話>
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