富士と桜と紫式部

 

 一つクイズをしてみよう。

  「□□」(板書)これは漢字です。

  「○○○」(板書)こっちは仮名です。 

 いろいろとヒントを出すけれど、分かったら手を上げてください。   

まず第一ヒントは「駒込橋」(板書)これだけじゃあちょっと無理だな。駒込橋っていうのは駒込の駅の所の橋だよ。

次に第二ヒント、「特急列車」(板書)まだ無理だね。

じゃあ第三ヒント、「銀行」(板書)もうそろそろ答がでてもいいぞ。

え? そうだ、○○○は「さくら」だね。

昔の太陽銀行と神戸銀行、それに三井銀行が合併して「さくら銀行」になったね。とすると□□はなんだ。

え、三菱、へえ、特急「三菱」なんてのがあるのかね。(笑声)

特急「さくら」っていうのはあるけどな。

特急にも銀行にもある名前ないかな。

おっ、そうだ。「富士」だね。特急「富士」もあるし、富士銀行もある。

もっとも富士銀行はバブルの時にいささかボロだしたけれどな。

この後のヒントは、どうなってるかというと「フイルム」、これは「富士フイルム」と「さくらフイルム」で、次が「日本のシンボル」となれば分かりやすいね。

 所で一番はじめの駒込橋がどんな理由で富士と桜に関係してるか分かる人? 

はい、そうだね。欄干の模様に富士と桜がついているんだ。

出来たばかりでまだペンキ塗りたてだけど、遠くから見て「変な模様だなあ」と、気になって近くに行ってよく見たら、何のことはない、上側が富士で下が桜だよ。

これ知ってた人、手を上げて。そうか。どこの組にも5、6人いるな。

知らなかった人で駒込駅の方に帰る人は、今日、見てごらん。すぐに分かるから。

と、いった所で、この模様の「富士」だけど、こんな風に、Sを引っぱり伸ばしたような線があるんだ。

これ、何の事だろうね。

そうだ。こんな変な模様は雲だ。だけどこれは実際の雲とは形が大分違うね。

これは「源氏雲」と呼ばれている。昔から「源氏物語絵巻」で余計な所を省略するために使われたものだが、今日、美術の先生に聞いたら、源氏物語が書かれて間もない平安時代から使われていたそうだ。

特に一般的になったのは、江戸時代に、版画が発達してかららしいがね。

 

 さて、所で源氏物語の作者は言うまでもない紫式部だけれど、この世界各国の言語に訳されて、諸外国にも有名な源氏物語の作者は、始めは「藤式部」と言われた。

紫式部が始め「藤式部」だった事、知っていた者いるか。

ほう、何人かいるな。じゃあ、なぜ「藤」が「紫」になったんだい。

え? 「若紫の巻」! こりゃあ驚いた。ほかの組じゃあ誰も知らなかったよ。

今の返事の通り「若紫の卷」がとても人気があって、それまでは藤原という姓から「藤式部」と呼ばれていたのが、あのすばらしい「若紫の巻」を書いた人だ、と言うわけで「紫式部」と言われるようになったということだ。

 

 さて、この「紫式部」の名前の由来にもなった、「源氏物語」の中でも最高の傑作「若紫の巻」だが、驚くなかれ、先生の小学校の時に、国語の教科書に出ていた。

筋を知ってる人、何人かいると思うけど、手っとり早く話すと、

「青年の源氏が道を歩いていると、ある家の中から女の子の泣き声がする。何だろうと思って垣根の隙間からのぞいてみると、それはそれはかわいい子で、その泣いている様子がなんともいじらしかった。」

国語の教科書では、ただこれだけ。(笑声)

本当の話はまだまだ続き、この女の子に惚れ込んだ源氏はチャンスを見計らって、この女の子を養女にして引き取り、最後には……ご想像のように自分のお嫁さんにしちゃう。

何のこたぁない。光源氏はロリコン第一号だ。(笑声)

何だって。そんなこと国語の教科書に出てたかって?

そこまでは出てないよ。ほんのさわりの「あの子、かわいいなあ」ってポーッとした所まで。(笑声)

つまり性教育と情操教育の混じりみたいなもんだな。

それで、こればかりじゃなくって源氏物語は男と女がどうのこうの、くっついたり離れたりヤキモチ焼いたり、そんな事ばっかりだ。

だから先生から見りゃあ、何であんなのが大文学かさっぱり分からんけど、百人一首の中の歌で紫式部が作ったのは知ってるか。

そうだね。「めぐりあいて みしやそれとも わかぬまに 雲かくれにし 夜半の月かな」これはちょっと見た感じでは、月になぞらえて男女の関係を歌ったような感じだが、その実、そうでないらしい。

幼なじみの友達、勿論女の人だけど、その人にたまたま会って、積もる話をしたいけれど、その友達はご主人が地方に転任するので、一緒に行かなければならず、すぐに別れなければならなかった。非常に残念である。と言った女同士の友情を描いた物らしい。

とにかく紫式部という人は、おしとやかな人で、他人の前では「私は小説を書く所か、一という字すらどう書くのか知りません」と謙遜した態度だったらしく、宮中の歌合わせの時も、代わりに後輩を紹介して、自分の代理に出し、その後輩が「いにしえの  奈良の都の  八重桜  今日九重に  匂いぬるかな」という名歌を作り、面目をほどこし、紫式部に感謝したという話もある。

だから、敬虔な淑女である一方では、ロリコン男の女出入りのすさまじさを書いたりして、失礼だが何だか二重性格、昼間は紳士、夜になると月に向かって吠える狼男の女性版みたいな感じもするね。(笑声)

 

<脱線千一夜 第6話>  


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