変な小父さん

 

 ある朝、先生が週番で校門に立っていたときだけど、どっかの小父さんが来て、いろいろと手伝いをしてくれた。

一列になって右側通れだとか、横断歩道じゃあない所を斜めに通っちゃいけないだとか、コマメにオセッカイやいてるんだ。

先生は、きっと、この地域の町会の人だろうと思ってた。

そうしたら、暫くして、その小父さん、先生の所にやって来て「この門だけじゃなく、むこうの門も開けた方が、生徒には入り易い。実は、私は区長だけれど、その様にしなさい」と言って来た。

いいかい。町会の役員じゃあなくって、恐れ多くも豊島区の区長様だよ。

だけど、学校で決めた規則があるから「じゃあ、校長と相談して職員会で検討してみます」と言って、その場はお引き取りを願った。

後で、校長先生に「何だか、今日、変な人が来て、自分は区長だが、これこれこうしろって言ってたんだけど、どうしますかね」と話した。

そうして、背の高さや、全体の感じ、いろいろと説明したら、丁度、区長が替わったばかりで、校長先生も、まだ一回しか会った事がない。

似ていない事もない。本人かも知れないし、違うかも知れない。なんとも言えない。

昔の水戸黄門みたいに、しもじもの様子を見て回ってるのかも知れない。

とにかく、区役所に電話して確かめてみよう。と言う事になった。

 

 君達も大体見当がつくように、その小父さんはニセ区長だった。

本物の区長さんは遠くの方、九州だか北海道だかに出張で、アリバイがあるって訳だ。(笑声)

じゃあ、あの小父さんは一体何じゃいね。

区長のにせ者やって、儲けたり、いばったりするなら、話は分かるけど、早起きして、学校の前で交通整理やったって、それこそ一文にもならん。

いささか、おつむが怪しいんじゃあないかと思うけど、普通の人間だったし、ちゃんとした日本語しゃべってた。(笑声)

まあ、僅かばかり、おかしいって所だろうな。

この間、たまたま区長さんと直接お話する機会があったんだ。

そこで、これこれしかじかだったんですよってお話したら、区長さんが、なんて言われたと思う。

「そんな事は年から年中有りますよ」(笑声)

区長さん自身もいろいろと被害に会われておられるらしい。

つまり世の中には、こんな、訳の分からない奴が相当いるんだろう。

 

 所で、突然、関係ない他人の家に入り込んで来て、そこの家の赤ちゃんを12階のベランダから放り出したりするような気違いもいる。

やられた方は災難で、家の中にダンプカーが飛び込んできたのと同じだけれど、相手が気違いじゃあ、どうしようもない。

問題は、その気違いを外に出さないように、気をつけなければならない家族に責任がある。と言っても、この辺は人権と絡んでくるので、こと、簡単にはいかない。

学校の前で、交通整理する位ならいいけど、いつ、どこで、サギに会ったり、どんなひどい目に会わされるか分からないから、気をつけなけりゃなあ。

 

 「人を見たら泥棒と思え」って諺があるけど「人を見たら気違いと思え」って言うのも必要だな。

でも「天才と気違いは紙一重」って言う諺もある。

そうすると、あの小父さんは大天才にスレスレだったのかも知れないな。

その上ボランティアで交通整理をしたり、君達、もって規範とすべきかな。(笑声)

 

<脱線千一夜 第7話>  


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