南米人のヤクザ

 

 南米人と言うと、君達は日本人と違って背が高く、精悍な顔立ちで頭の毛の少し縮れてる人を考えるだろうが、それが大間違い。

南米には日本からおおぜいの移民が行っている。

その移民の人は移民の人どうし結婚してる事が多いから子供も日本人の顔、つまり国籍は現地、見かけは日本人、学校や会社じゃあ現地語、家に帰ると日本語と言う生活をしている。

今、南米では経済が行き詰まってる国が多いから、失業者があふれ、たくさんの人が日本に出稼ぎに来ている。

ほかの外国人と違って、日本人と同じ顔で、日本語を普通に使えるから、日本人と区別がつかない。

 

 そこで、ある会社の社長さんの話なんだけど、この社長さんのやっている会社はいわゆる中小企業で、社長さんと言っても社長室でゆったりしてんじゃない。

社長さんが率先して自動車で走り回って、仕事の注文取って来たり、先にたって仕事をしたり、帳面つけやってるような会社だ。

その社長さんが、ある時に日本に出稼ぎに来た南米人と知り合った。

「仕事が無くって困ってる」って言うんで、じゃあ、うちの会社で使ってやると言って、社員にして、まず第一番に自動車の運転が出来ないと仕事にならないって訳で、自動車の練習場に通わせた。

勿論、月給を払い、その上、自動車学校の月謝も出してやってるんだ。

所が、この人間は、いささか頭が足りないのか、運動神経がゼロなのか、いくらやっても、何回テスト受けてもダメ。

結局、免許取れずじまい、しょうがないから、社長さんがこの仕事をやれと、簡単な事を言いつけてやらせようとしたけれど、それも駄目でとにかく簡単な事も出来ない、ヘマばかりして、作ったのは不良品の山ばかり、(笑声) かえっていない方がよほど助かる、って訳なんだ。

だから社長さんもとうとう匙を投げて、もう明日から来なくていいよって、クビを言いわたしたんだ。

お前がいると会社つぶれちゃうって断ったんだ。

 

 さてこれからが問題、例の南米人、クビになったとたん、急に本性を現したんだ。

ヤクザのようになって、なぜ、俺をクビにしたんだ、と仲間を大勢連れて会社に乗り込んできた。

つまり、初めからやる気はなかったんだ。

この会社はタカれると思ったら、しつっこくダニのように食らい付くわけだ。

狙われた社長さんも運が悪かったんだな。何回も何回も会社に大声で怒鳴り込んでくる。会社は仕事なんかになりゃあしない。

しかたないからいくらか金を渡してその場はしのいだが、又、やって来る。又、いくらか渡すと、しぼればしぼれると味をしめて、又、やって来る。社長さんの家には毎日のように脅迫電話をかけてくる。

奴らは暇が十分にあるんだからひっきりなしだ。それが商売みたいなもんだからな。

社長さん困って警察や裁判所に行ったけれど、これが、又、駄目なんだな。と言うのは日本の警察は「民事不介入の原則」って言うのがある。

これはつまり、事件が起きなければ動いてはいけないって言う事だ。

殺人とか傷害とか実際に血が流れてるって言うんだったら、すぐにすっ飛んで来る。

だから、その南米人達が物を壊したり、ナイフをつきつけたりすりゃあ器物損傷や傷害未遂で検挙出来るが、今の様子じゃあ駄目だって言うんだ。

それも現行犯でないとダメ。(笑声)

全くバカなもんさ。奴らもそれを承知で嫌がらせをしに来るんだ。

だから、その社長さん、今、ビデオカメラやテープレコーダーで、奴らの、のっぴきならない証拠をとろうと用意している。

初めは少しは国際親善になるかと思って好意的にしたのだろうが、それが裏目に出ちゃったんだよな。

とにかく、こんな事でその国の信用がガタ落ちになっちゃうのは、大部分の国民はまじめに仕事にはげんでいるのに、残念至極な事だ。

ヤクザって言うと、日本独自の事かと思うけれど、外国にもこのようなヤクザ者がいる。

なお、なんでヤクザって言うか知ってるか? 知らない、何だって? ヤクザな事してるからヤクザ。(笑声)

だったら、猫はなぜ猫って言うかって言うと、猫だから猫だって言うのと同じさ。

猫は「ニャー」って言う鳴き声に、愛称の「子」を付けて、「ニャー子 」となり、それが「ネコ」になったと言われる。

ヤクザは、数字の8、9、3だ。

これはトランプで、絵札を除いたAから10までのカードを使ってやるオイチョカブって言うバクチに関係があるんだ。

オイチョカブでは、2枚か3枚のトランプの点数を合計して1の位の大小で勝負する。

まず初め2枚のカードがくる。これが8と9だった。合わせて17だから1の位は7点、これでやめりゃあいいのに、ひょっとしたら次のカードが1か2なら、もっと点が増えると思って、もう1枚もらったら、これがなんと3、(笑声)

合計して20だから、結局0点で「ブタ」になっちゃった。

つまり、ヤクザって奴は、人間として0点、何にもならない寄生虫ってわけだ。

まあ、この話の社長さん、ちょっとウカツだったんだよな。

社員雇うには、身元をしっかりと調べる必要があり、きちんとした人に保証人になってもらう必要がある。

何、さっきのオイチョカブで、もう1枚もらって、それが9だったらどうなるのかって。そりゃあそうなりゃ合計が29で端数が9、最高点だけれど、オイチョカブは2枚か3枚に決まってるんだ。

何故かって? そこ迄は先生も知らない。

国定忠次か清水次郎長に聞いてくれ。(笑声) 

 

<脱線千一夜 第9話> 


前へ戻る
メニュー
次へ進む