天皇のトイレ
君達は生まれた時から水洗便所を使ってるな。
東京は下水道が完備されてるから、下水に流して、固形分は焼却、液体分はまとめて消毒し、きれいにして海に流す。
でも、昔はトイレは中に大きいカメが埋めてあって、そこに溜める。
この頃の日本の家は玄関を開けるとプーンと大便の臭いがすると、外国人から言われたもんだ。(笑声)
まさに国辱ものだよな。
特に、一般の家は、トイレは玄関の隣にあるんだ。(笑声)
これには、ちゃんと理由がある。
狭い家でトイレが奥の方にあると、お客にトイレ貸す時に、家中ずーっと歩かれるから、そのような間取りは良くないって、小学校の時に教わった。
農家では、家の外にトイレの小屋がある。丁度、公園みたいだ。
農家の人は裸足足袋(はだしたび)つまり、今のキャラバンシューズと足袋との合いの子みたいな物をはいて、仕事をするから、泥足で入れるようなトイレでないと、具合が悪いからだ。
だから、寒い雪が降っている夜でも、傘をさして、ローソクで足元明るくしてトイレに行く。
そんな訳で昔のトイレは不便な物だった。家の外の公園型か、さもなけりゃあ玄関の隣で戸を開けるとプーン型、(笑声)
さて、そのトイレのカメの中にたまった物を、清掃局の職員が来て、大きいヒシャクですくって、タルに入れて運ぶ。(笑声)
次に、船の大きいタンクに移して、太平洋の沖合いに運ぶ。暁の黄金艦隊なんて言われたもんだ。
それから、どうするかね。
うん。そうだ、白らばっくれて海に流っしゃう。(笑声)
広い海だから構うこたねえや、かえって魚の餌になるだろう、なんて考えてたんだろうが、これも外国船からクレームがついた。
玄関開けると臭うどころか、船が日本に近づくと、もう臭ってくる。(笑声)
ひどい奴になると、つまりは手抜き工事と言う奴で、決められた場所迄行かないで近くの海で流して帰ってきちゃう。
それが海水浴場に流れて来る。(笑声)
今じゃあ考えもつかないけれど、これが何十年か前の日本の実態だったんだ。
もっと昔になると、自動車もないし、大きい船もないから、自前で処理をする。
つまり、農家に引き取ってもらって、肥料にしてもらう。
つまり、有機栽培ってわけだが、寄生虫の卵が野菜にくっついて、洗っても取れないって事があった。
だから、昔は寄生虫のいる子が多く、検便と言うと細菌検査じゃあなくって顕微鏡で寄生虫の卵の有無を調べていた。
まあ、日本だけでなく、どこの国でもこれの処理には困ってたらしい。
花のパリ、なんて言うけど、パリも昔は臭くってかなわなかったらしい。
だから、貴族達は逃げ出してベルサイユに来ちゃったと言う事だ。
でも、ベルサイユも同じ事になってしまい、どうしようもないので香水を大量に使ったという事だ。
さて、フランスの貴族ならぬ日本の貴族はどうかって言うと、一人に一つの部屋があって、そこの下に大きい穴が掘ってある。
落ちないように、何かつかまる木でもあるんだろう。大きい穴だから一生使える。(笑声)
その人が死んじゃったらそれでおしまい。後は埋めちゃう。(笑声)
このほか、箱に砂を入れてするというのもあった。
この形のトイレは今でも残っていて、先生は、日光の御用邸跡等で見た事がある。
そうか、君達の中にも見た者いるな。
そしたら後で係りの者が押し頂いていって、どこかに埋めるんだろう。
毎日の事だから係りの人も穴掘りは楽じゃあないだろうがな。
まあ、このようにして偉い人は、臭くないトイレを使っていた。
所で、菊のカーテンの彼方、明治天皇の時だそうが、天皇が行幸、つまり旅行された時に、旅館では最高のおもてなし、天皇陛下がお泊まりになったと言えば、これは最大の宣伝だからな。
食事も毒見の係りが食べて安全を確認、とにかく天皇陛下は神様だから何か失礼な事をやったら、たちどころに天罰がくだり死刑、(笑声)
やっと明治天皇が帰られてホッとしたけれど、その後、問題の物が一つ残った。(笑声)
天皇が来る前に、急いで天皇用のトイレを作ったけれど、そこの砂の上にある物だが、さて困った。
神様のなさった物をうかつには扱えない。
さてどうするか。
え? 神主に御祓いしてもらってから埋める。なるほど、いい手だな。その上に神社作って、大便大明神とでもすりゃあ腹具合の悪い者には効きそうだな。(笑声)
でも違うよ。誰か分からないかな。ト、この辺で止めよう。どうやら正解が出て来そうで危なくなって来た。(笑声)
まあな、殆どの人は他人の見てない所で捨てちゃったろう。
でも、一部の、キチガイの様に天皇を崇拝していた者は、霊験あらたかなるを信じて、伏し拝みながら……と思うよ。(笑声)
<脱線千一夜 第10話>
前へ戻る メニュー 次へ進む