子供殺し

 

 殺人事件は毎日のように新聞やテレビで問題になってるけど、殺人と言うと、あの野郎、憎たらしいからバラッシャエと言う訳で、仕事や恋愛関係のライバル、 また「なにを! てめえ、ガンつけやがって」と、突発的な事件、そんなものが多いと思うだろう。

実は全く違って、親の子供殺し、子供の親殺し、きょうだい殺し、孫のお祖父さんお祖母さん殺し等、血のつながっている者の殺人が、ずっと多いんだ。

 

 実際、昔、先生のいた学校でも親の子供殺しがあった。もっとも、その生徒が卒業してからだけどな。

女の子で、そんなに、箸にも棒にもかからないワルって程じゃあなかった。

それ程、頭は悪くは無いし、高校に一応は進学したけれど、怠け者で、間もなくやめちゃったのかやめさせられたのかは知らない。

やめてから、どこかに働きに行くってなら、まだいいけど、家の中でゴロゴロしていて、親が注意すると、物を投げたり、何か壊したりして、反抗する。いわゆる家庭内暴力で手が付けられない。

あまり詳しくは、先生とは学年が違ってたから、よく知らないけど、とにかく、親は、ほとほと手を焼いていたらしい。

それで、どんなきっかけがあったかは分からないが、もう、お父さんは絶望してしまって、その子が寝ている時に、首に縄を巻いて締め殺してしまったんだ。

いくらなんでも、自分の子供を締め殺っしゃうんだから、よっぽど、その子供は悪たれやったんだろうね。

お葬式の時に、もとの担任の先生を始め、もとの学年の先生達が行って来たけど、その先生達の話じゃあ、お母さんやお婆さんが「○子、○子」って泣きわめいて、気の毒で見られたもんじゃあなかったそうだ。

でも、それにしても、自分の子どもを、くびり殺した父親の気持ちはどうだろうね。

君達も、大きくなって、好きな人が出来て、結婚して、間もなく赤ちゃんが出来る。

いい子だね、いい子だね、って言って、お利口さんになるように、一生懸命に育てる。

その子が突然、家庭の平和を破壊する魔物に変身する。ガガガガーン、(笑声)

ちょうどガン細胞と同じだ。人間の体の中で、本来は人間の健康の為に働くはずの細胞が、突然ガン細胞に変身し、人間の生命を脅かすようなもんだ。

え、何? 私は独身主義者だから結婚しないし子供も作らない、成る程ね。

前にもそんな事言ってた卒業生がいたよ。だけど、大学を卒業したらすぐ結婚しちゃったよ。

たしか、もう、子供が二人いるって聞いたな。(笑声)

 

 ま、それはそれとして、この様に肉親関係の殺人事件が多い原因は、外国ではよく推理小説なんかにある財産相続の問題があるが、こりゃあ日本には当てはまらない。

何故かって言うと、日本は貧乏国で、人殺し迄やって取り合いをするような財産なんて、ありゃあしないよ。

それに、日本の警察は、世界一優秀だから、捕まったら、財産どころか牢屋行きだ。場合によったら死刑じゃあ割に合わない。

だから、親子喧嘩等で、カッとして、エスカレートし、こんな悲劇に発展するのが多いのだろう。

以前、読んだ事だが、これも子供が悪タレの限りを尽くし、思いあまった親が、ナイフを突きつけて殺そうとしたら、それまで子供が父親のことを「ジジイ」とか「クソヤロウ」とか言っていたが、初めて「お父さん」と言う言葉を使い「ごめんなさい、お父さん、もう悪い事しないから殺さないで」と哀願したけれど、親はそれを聞き入れず刺し殺してしまったと言う凄惨な事件があった。

高校生が鉄パイプで、お父さん、お母さん、お婆さんを殺してしまった事もあった。

 

 これらの原因は何だろうか。

つまり、日本は貧乏国で、親が自分の老後が心配なわけだ。だから子供に期待をかける。

子供が十分にお金を稼いで来て、年取った自分を養ってくれるようにしたい。

そんな事が、子供からすれば、見え見えだから、子供が増長しちゃう。

増長する子供も悪いが増長させる親も悪い。自分の子供が先生に叩かれたからって大騒ぎする親なんかその代表だ。

先生は絶対に子供を増長させない。反対に我慢する心を養わせる。次は給食だな。だから、今日の授業は10分ばかり余計にやって、空腹を我慢する心を養おう。(騒声)

まあ、そこ迄は勘弁しとこう。その代わり、先生殺しなんてのは、やってくれるなよ。(笑声) 

 

<脱線千一夜 第19話> 


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