坂の都東京

 

 修学旅行の時にガイドさんが教えてくれるかも知れないが、京都と大阪と東京について、なんとかの都っていう言葉がある。

京都はお寺が多い。清水寺とか三十三間堂だとか、沢山ある。だから、京都は、寺の都だ。

大阪は心斎橋とか道頓堀とか、川が多いので、水の都だ。勿論、世界一の水の都のベネチアには、かなわんだろうがね。

さあ、じゃあ、君達の住んでる東京は何の都だろうね。

え? 何、日本の都、(笑声)  こりゃあ一本やられた。

ほかにないか。では紹介すると「坂の都」っていうんだ。

東京は、昔、海が入り組んでいて、複雑な海岸線だった。それが隆起して陸地になったので、あちこちに坂がある。富坂だの目白坂だの紀尾井坂だの夏目坂だの、坂だらけだ。

だけれど、この間、名古屋に行った時、驚いた。自転車で三十分位の所に行ったんだけど、坂を上がったり下ったり、とても骨がおれた。名古屋も東京と同じように、複雑な海岸線が隆起して出来たのだろう。

名古屋は日本で始めてオートバイがはやりだした所だが、自転車じゃあ、坂が多くてくたびれて仕事にならないって事がきっかけだったのかも知れない。

そこで、寺の都京都、水の都大阪、坂の都東京、ときたので、モリの都ってのは知ってるか。

ほう、よく知ってたな、仙台だ。何? お父さんの田舎で、毎年夏休みに行ってる、(笑声)  じゃあ、くわしいわけだ。

所で、この「モリの都」の「モリ」は「森」じゃあない。違う字を書くんだけど、それは、やがて、国語の時間に習うだろう。

 

 さて、この、京都、大阪、東京については、もうひとつある。「京都の着だおれ」、「大阪の食いだおれ」って言うんだ。

つまり、京都の人は着物が好き。着物に沢山お金かけて、贅沢三昧しちゃって、財産つぶっしゃう。まあ、つまり、着物道楽が大勢いるってことだ。

大阪はその通りの「大阪の食いだおれ」のつまり、食い道楽、うまい、珍しい高価な物を食って、財産つぶっしゃう。

となると、さて、東京は何だろうね。

ちょっと見当がつかないかと思うけれど、 「東京の履きだおれ」って言うんだ。

「履きだおれ」って何だろうね。

そうだ。「履きもの」だ。案外だろうけれど「下駄」だ。

昔のことわざだから「靴」でなくって「下駄」の事だ。つまり、桐の高価な下駄や、漆塗りの素晴らしくきれいな下駄をはいて見栄を張る。粋を競い合っていたんだな。

下駄だからって、たかが知れてるって思うかも知れないが、昔は、とても高い物で、一般庶民には手が出ないものが沢山あったんだ。

例えば、旅館などで、お客のふところ具合を見るのに、まず、履き物を見て、見当をつける。

今でも、「足元を見る」って言葉が残ってるよな。

下駄は、昔の交通の道具だから、今なら、さしづめ自動車道楽だな。

月給二十万円位の者が、五百万円位の自動車をみせびらかしながら乗り回す。

本当の自動車好きだったら、古い自動車を、よく手入れして、エンジンやブレーキなど、全部、自分で手入れして、大事に乗るってのが、正しいのだろうが、高価な自動車を、見せびらかしながら、乗りまわすのは、「履きだおれ」っていうより「見せびらかしだおれ」って言ってもいいだろう。

 

 見せびらかしっていやあ、彼女や彼氏とイチャイチャして、どうだい、みんな焼き餅ヤケヤケなんて態度が見え見えなのは、バカらしいってないけど、そんなのに限ってイチャイチャしてる相手は、奇麗でもないしハンサムでもなくて、むしろその反対だから面白い。(笑声)

まあ、昔から恋は盲目と言われてるからナ。(笑声)

 

<脱線千一夜 第26話>  


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