玄冶店
この間、春日八郎って有名な歌手がなくなったことは知ってる人多いね。
じゃあ春日八郎のデビユー曲は何だか知ってるかい。
そうだ、「お富さん」だね。
この歌は本当は別の歌手が歌うことに予定されていたのだけれど、なにかの都合でその歌手が歌えなくなってしまったので、急きょ、春日八郎が抜てきされて、歌うことになった。
つまり、野球で言えばピンチヒッターだ。
所がこれが大ヒット、春日八郎は押しも押されもせぬ大スターとなったというわけだ。
所で、この「お富さん」という歌は「世話情浮名横櫛」という歌舞伎から取ったもので、そのな中の主人公の二人、与三郎とお富の再会を歌にしたもので、筋は分からなくてもメロデイが軽快で、歌詞も歌舞伎と同じ「死んだはずだよ、お富さん、生きていたとはお釈迦さまでも気がつくめえ」という有名なセリフ入りなので覚え易く、たちまち大人も子供も口ずさむようになった。
それでこの歌の「エーサオー、玄冶店」ってなんだろうね。
何か売ってる店か。
いやいや違う、この「玄冶」っていうのは実際にいた大金持ちの人の名だ。
その玄冶が、なにをしくじったのか財産つぶしちゃった。
バクチか株か商品取引か何だかわからんけどね。
それで、その玄冶の持っていた広い土地が他人の手に渡った。
じゃあその土地を手にいれた人はどうしたかというと、アパートを建てた。
アパートと言ってもこのへんの四階建ての二DKじゃない。
ちゃんと庭があり塀がきちんとしているきれいな一軒家だ。
それが玄冶の広い屋敷跡にずっと並んだわけだ。
大金持ちだったので、恐らく六義園よりも広い所に、たくさん貸家が並んだのだろう。
じゃあそこを借りる人はどんな人だろう。
貧乏人は汚い長家に住んでいて、満足に家賃だって払えないんだから、そんないい家に住めっこないね。
だから借りたのは相当の金持ちだろうけれど、この家を借りた金持ちは、このいい家を何に使ったんだろうね。
え? 自分で住む? いや、金持ちはいい家を持ってるよ。
別荘? 江戸の真ん中じゃ景色なんてよかないよ。
え? 倉庫?(笑声) もったいない。
答はね。昔の金持ちは奥さんをたくさん持ってたんだ。
第一号の奥さん。第二号の奥さん。第三号の奥さん。この他大勢。(笑声)
これらの奥さん達がみんなで一緒に生活してたらどうなる。たちまち、やきもちやきの大喧嘩になるよな。と言った訳で、きれいな借家に二号さん三号さんを住まわせておいたんだ。
これが玄冶店だが、このように一人の男が大勢の女を独占すると、当然、そのあおりを食らって、嫁さんもてない男が沢山いたろうと思うとそうでない。
東京、つまり江戸は徳川のお膝元で、侍が沢山集まっているので例外だが、日本全国で考えると、女の方が多かった。ナゼカナ。
ワカランカ。これは、つまり、間引きと言って、生まれてきたばかりの赤ん坊を殺してしまうからだ。
主に、殺してしまうのは、男の赤ん坊で、女は殺さない。金になるから。
なぜ金になるかというと、小さいときから、子守奉公に出す。五木の子守歌ナンテのを、知ってる者多いだろうな。
おどま かんじんかんじん
あんひとたちゃ よかしゅ
よかしゅよかおび よかきもん
おどまは自分、かんじんは乞食、よかしゅはお大尽、自分は乞食で汚い着物で働かされているが、主人一家はお大尽で、いい着物を着ている。と言う意味で、女の子の悲しさを唄っている。
もっと年をとると、女中奉公とか、教室で話すには一寸ふさわしくない諸々の仕事がある。これがいい金になる。(笑声)
この点、男なんざ、何にもならん役立たず。チャンバラゴッコやって、障子や襖に穴を開ける。火イタズラしてぼやを出す。よその家の物を盗んでくる。奉公に出すと、番頭さんとケンカして、売り上げ金を持ち逃げした上、博打で全部使っちゃう。(笑声)
と言うわけで、生まれたばかりの男の赤ん坊の顔に、濡れた半紙を何枚かかぶせておく。息が出来ないから、すぐに死んじゃう。今じゃ嬰児殺しで殺人罪だが、昔はいい加減だった。
男は跡継ぎが一人いればいいという訳で、こんな事から男尊女卑の風潮が出来た。
南米のある国は、回りの国々と戦争をしょっちゅうやっていたので、男が死んでしまって、数が少ないから、極端な男尊女卑だそうだ。
何? 俺、その国に行きたい? だけど、この話は百年くらい昔の事らしいよ。ザンネンデシタ。(笑声)
<脱線千一夜 第33話>
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