喧嘩の仲裁
この間、職員室で、一年生の子が大ぜい怒られてたけど、いじめだそうだ、というのはこんな訳だ。
あらすじを説明すると、まずAとBとがつまらないことで、いさかいを始めた。何が原因かよく聞かなかったけれど、どうせ大した事じゃあないだろうと思う。
所が、もともとAとBとは気が合わなかったらしく、だんだんとエスカレートして、最後は殴り合いになった。
そこにやってきたのは、Cを中心とするD、E、F、Gのグループだ。
これは、まあ、Cがボスといった感じで纏まっている。
AとBとが喧嘩してるのを見てCが、「おい、やめろ」と割って入った。
ところがAはBばかりでなく、Cとも普段あまり仲が良くなかったらしい。
「テメエ。関係ねえのに余計な口出しすんな。引っ込んでろ」と言うわけで、Cのことを殴っちゃった。
さあたいへん。「テメエ、関係ねえ俺によくも手出ししやがったな。」とCもBに加勢してAをやっつける。
あと、DもEもFもGもAのことを「お前が一番生意気なんだ」「テメエはクラスの悪魔だ」「狼男だ」「殺人鬼だ」「ゴキブリだ」(笑声) なんてわけで、みんなでAをメチャメチャにやっつけちゃった。(笑声)
そこで誰かが急いで先生達の所にご注進に及んで、全員職員室行きになったと言う事らしい。
さーてね、では君達、この事件で一番悪いのは誰と思うかい。
一番始めにきっかけを作ったAとBの喧嘩については、喧嘩両成敗と言う事にして、悪い奴は誰だい。
何? みんな悪い(笑声) そりゃあそうだけどさぁ、その中でも一番悪い奴は誰だろう。
聞いてみようか。A、A、C、A、C、C、A、A、A。Aが分が悪いようだな。
女の子の意見はどうだろう。うん、男の喧嘩は女には分からないか。
じゃあ先生の意見を言おう。
勿論全員が悪いのは分かってる。でも、その中で一番良くないといったらCだと思う。先生の聞いた限りではな。
では何故Cが悪いと言うかと言うと、さて、これからが大切だからよく聞けよ。
そもそも喧嘩の仲裁をしようだなんて気を起こしたら、何発もぶん殴られるのを承知でやらなきゃ駄目だ。(笑声)
喧嘩をしている当人達は、普段の人間とは違うんだ。頭がカツカツしてのぼせ上がってる。正確な判断等は出来る訳がない。
だから、その中に入って余計な事言やぁ「何だ、この野郎、うるせえな」と殴られる位は当然なんだ。
じゃあ、殴られたら、俺は手出ししてねえのにテメエが先に殴ってきた。テメエが先に手出ししたんだ。テメエが悪い。俺は正義の味方だ。月光仮面の生まれ変わりだ。(笑声) とばかり始めてしまえば、小さい喧嘩をかえって大きくしちゃう。
つまりカッカッして頭に血が上っている奴に余計な事言って殴られたのは、自分の責任なんだ。
気違い犬に手出しして噛付かれたようなもんなんだな。夢中で喧嘩してる奴は気違い犬と同じなんだ。
だから、そんなの相手にして、仲間が大勢いるのを頼みにしてやっつけちゃうのは、つまり「イジメ」と言われても仕方ない。
もしヤクザのような目つきの悪い大男が何十人も道の左右に別れてナイフ等を持ってにらみ合いをしていて、一瞬即発の時に「喧嘩なんかヤメロヤメロ、バカくせえぞ、そんなナイフなんか早くしまえ、子供の教育によくねえぞ」なんて大声で言いながらノコノコ入って行けるか。(笑声)
なんだ、このガキ、引っ込んでやがれ。と、叩きのめされちゃうか、場合によっちゃあ殴り殺されちゃうよなぁ。
だから交番や警察に知らせる。
つまり喧嘩の仲裁の時には、何発か殴られても我慢する位の気持ちがなけりゃ、早く先生に連絡するんだ。
これはチクルってのとは違う。
よっく聞いとけよ。
チクルってのはナ、しょっちゅう自分が悪サしてんのに、たまに他人が悪サしてんのを見つけるとシメタとばかり先生に言いつけに行き、そいつが先生に怒られてるのを高見の見物して「ザマアミヤガレ、アイツ年中イバッテヤガッテ嫌ナ野郎ダト思ッテタケド、先公ニブンナグラレテ、胸ガスーットシタ」なんて喜んでいる奴の事だ。(笑声)
<脱線千一夜 第35話>
前へ戻る メニュー 次へ進む