虚時間とホーキング

 

 以前、中村先生って面白い国語の先生と、同学年で一緒だった事がある。

とても、面白い先生で、生徒に人気があったけど、この中村先生が、ある時、職員室で、学校中に響くような大きな声で、

「ボカー、(僕はじゃないよ、ボカーだよ)中学の時は、すっごく、数学出来たんですよ。ずーっと通信簿は5だったんですよ。所が、高校に行ったとたんに出来なくなちゃったんですよ。と言うのはね。負の数の平方根はありえないって、中学の先生に習ったでしょう。その通り真面目に覚えてたんだけどねえ。だけど、高校行ったら、高校の先生は、負の数の平方根を使っていいろいろ計算始めたんだ。一体こりゃ何じゃいな。数学の先生はウソつきか詐欺師か、(笑声) もう、訳がわかん無くなって、それからは、最低になっちゃいましたよ」(笑声)

そこで、先生がね。

「いいかい、中村先生、小学校の低学年では、1割る2は出来ないって習うでしょう。だけど、高学年になると小数や分数を習うから、0.5だとか2分の1と言うふうに、出来るようになる。1引く2は、小学校では、出来ないけれど、中学になると負の数を習うから、マイナス1って答が出る訳ですよ。二乗するとマイナス1になる数は、中学では習いませんけれど、それでは

X^2=1 なら答は 1とー1と解けても

X^2=ー1 という問題は解けません。だから

i×i=−1 になるようなiと言う数を作って行く訳です。そうすればどんな二次方程式でも答が出ます。」

と話したら、

「成る程、そう考えればいいのか。こりゃあ残念な事した。早く知ってりゃあ東大を1番で卒業して、大学教授になっていたのに返す返すもクチ惜しいですナー」(笑声)

 

 君達は数直線というのを勉強したな。0を中心にして左右に伸びている直線だ。小学校のうちは正の数だけ勉強したのだから、このうちの右側、つまりプラスの数だけだ。(板書)

詳しく言うと小学校では小数や分数までだから、πなんて無理数は入ってない。穴だらけだ。

でもそんな難しいことはとにかくとして、中学になってからマイナスの数も習うから、数が直線の上にあるようなのがよく分かるし、小学生でも温度計の目盛りを見れば、すぐに分かる。(温度計の目盛りを板書)

ここの温度は何度だろう。

ここは?  30度

ここは?  マイナス10度

ちょっと狭くて見にくいけど、ここは?  1度

じゃあ、ここは何度だろう?(0度の所よりやや左を指す)

ガラス、板、空気、ひっぱたき棒のサキッチョ(笑声)

まあとにかく、こんな所には温度計の目盛りはないよなあ。だけれどもしも温度計が棒のようじゃなくって板のようだったらどうだろう。この黒板が全部温度計だ。(笑声)

(今迄の目盛りをY軸にして、X軸を書き加える)

こんな温度はないけれど、もしもあったとしよう。そうするとこれはi度になる。だから君達もすぐ分かるように、ここは2i度、ここは3i度、ここはーi度になるって言うわけだ。このiと言うのはさっきの2乗するとー1になるという不思議な数だ。

(i度の上を指して)じゃあここは何度だろうかね。何だって? j度(笑声)

ははーん。そうしたらば、(0度のやや手前の空中を指して)この辺はk度か。(笑声)

誰か知ってるだろう。そうだ。(1+i)度だ。

変な顔してる物が大勢いるな。確かに我々の宇宙にはこんな温度はない。温度っていうのは、分子の振動する早さだから(1+i)度ナンテのはある訳無い。

同じように、時間だってそんなおかしな物はないと思うんだけれどね。それがあるらしいんだ。i時間なんて何のことか分からないけど。何? タイムトンネルに関係があるんだろうって? さあ、どんなもんかね。

これについて研究したのは、アインシュタイン以来の大秀才と言われるホーキングだ。ホーキングを知ってる者いるね。

オックスフォード大学を1番で卒業、ケンブリッジ大学の大学院に進んだホーキングは、神経がだんだんと麻痺して3年位の命だと宣告される。そこで残された短い命を精一杯生きるために、猛烈に研究をした。

運動はすごくできたらしい。オリンピック選手って程じゃないにしてもさ。そのせいか、麻痺こそ進んだが、医者の予想は外れて生命をとりとめ、ずっと物理学の研究をすることが出来た。

彼は虚時間、つまりi時間のような物を考えて、宇宙を研究しているが、i時間なんてどう考えたらいいんだろうねえ。

何? 夢? 成る程。夢なんかそれに近いかも知れないやねえ。僅か5分くらいの間に50年くらいの夢を見たなんて話がある。

そうだな。カンタン夢の枕だな。でもi時間ナンテのは、カンタンなんて訳にはいかないな。(笑声)

 

<脱線千一夜 第37話> 


前へ戻る
メニュー
次へ進む