学校に泥棒に入って大怪我

 

 どんな奴だか知らないけど、まあ、大した奴じゃあないだろう。

とにかく、泥棒って言えば、現金しか狙わない、現金以外は持っていったって、簡単に処分出来ないし、テレビや電気冷蔵庫持ってって中古で売ったって、手間ばかり食って勘定に合わないよ。

ましてやナ、学校になんか入る泥棒は大バカだ。

学校にはお金置いてはいけないって規則があるから、どの先生だって、全然お金置いてない。

じゃあ、わら半紙の束でも、持って行くか。(笑声)

いや、わら半紙の束じゃあないけれど、テストの日の朝、問題を盗みに入った奴がいたね。先生が、まだ若かった時分だけれど。

朝、職員室に入ってゴソゴソやってる時に、警備員の人に見つかって問いつめられ、いや、それでも白状しないんだ。

何のかんのと、屁理屈こねやがってね。忘れ物したから、探しに来ただとか、まあ、図々しいもんだ。女だったけどな。

結局、そいつは進学しないで就職しちゃったよ。十分に高校受かる位の成績だったんだけれど、気が引けたんだろう。バカな事をやったもんだ。

たとえ、その時にうまくテスト用紙を盗んでも、下調べする時間なんてありゃしない。

そうかと言って勉強の出来る子に聞くわけにもいかず、何にもなりゃあしない。

それなのに、見つかって、担任の先生に恥かいて、信用を無くし、自分の一生のスタートを、過っちゃったんだからな。

 

 さてと、初めに言おうと思った泥棒は、これも又、バカな泥棒だ。

これは大人だから、テストじゃなくて、本気で金目の物を盗みにやってきた。

だけど、さっき言ったように、学校にはそんな物ありゃあしない。あったってピアノみたいにトラックでも使わなきゃあ駄目だ。(笑声)

バカな奴だから、そんな事とは知らずに、一生懸命にフーフーと骨を折って、手すりによじ登って窓の鍵をこじ開けようとしていたら、この手すりが半分腐りかかってたんだ。

そして、バキンと折れちゃって、下に落っこって、本当に骨を折っちゃった。(笑声)

つまり、悪い事をしようとしたから、バチが当たったんだ。

「天罰てきめん」って言う訳で、難しく言うと「天網恢恢、疎にして漏らさず」(てんもうかいかい、そにしてもらさず)なんて言うんだけど、そのバカな泥棒さんは、腹が立ってたまらない。

そこで、学校の塀がきちんとして簡単に入れなければ、自分は泥棒をしようと言う気にならず、手すりが丈夫なら、落っこって怪我をしないですんだ。自分の怪我は全く学校、しいては教育委員会の責任であると、言い張って教育委員会を訴えた。(笑声)

てめえで泥棒しに来て、手すりから落っこって怪我して、教育委員会を訴えるなんてメチャメチャな話だけれど、この裁判、どっちが勝ったか分かるか。え、そうだ、その通り泥棒さんだよ。(笑声)

この泥棒さんのおかげで、学校の塀が高くなって、上に「忍び返し」のトゲトゲがつきゃあ、先生達にとっちゃあ都合いい。時間ギリギリに来て、校門で週番につかまるからって訳で、塀を乗り越して入る奴がいなくなる。(笑声)

それに、手すりもきちんと工事してガッチリしたものになるだろうし、この泥棒はPTAから「感謝状」貰うかも知れないよナ。(笑声)

 

<脱線千一夜 第38話> 


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