クーリング・オフ
前に手付け金サギの話をして、これはサギのABCのAだなんて言ったら、じゃあサギのBの話をしろって廊下で付きまとって、うるさい奴がいるから、又、サギの話をしよう。
こっちの方は金額は小さいけれど、ひっかかってる者が大勢いると思うよ。よく聞いとけよ。
クーリング・オフって言う制度があるが、聞いた事ある者いるか。
何人かいるね。どういう事か知ってるか。そうだ。契約の取り消しだね。
前に言ったように契約の取り消しには「手付け金倍返し」というのがあって、相手に迷惑をかけるのだから、契約の十分の一の金額を弁償するような習慣になっている。
だけれども、クーリング・オフは無条件で契約の解消が出来るんだ。手付け金とか関係なし。となるとこれを無闇にやられたら経済が混乱しちゃうね。
そこでいろいろと条件が付く。それは「契約の場所がその業者の事務所では無く、契約してから一週間以内」だったら契約の解消が出来るんだ。
だから、今、盛り場でのキャッチ商法なんてのがあって、始めのうちはアンケートを取らせて下さいなんて安心させて、そのうちに言葉たくみに英会話のテープのセット等の何十万円もする物を売り付けられたような場合は、契約の場所がその業者の事務所では無いので、契約してから一週間以内だったら、契約の解消が出来る。
何? テープ、全部ダビングしてから返す?(笑声)
そりゃ駄目だろう。封を切っちゃったからなあ。
まあ、こんな訳で、敵は、つまりキャッチ商法やってる方は、更に上を狙う。
契約の場所が向こうの事務所ならいいんだから、何とか巧い事言って、お客を店まで引っ張って行こうとする。
まあまあ、ちょっと来て見て下さい。ご覧になれば必ずお気に入りになりますよ。とか何とか言われて、店に引っ張りこまれたら最後、おだてられたり、反対におどかされたり、契約するまで店から出してくれない。
仕方なしに契約しちゃったがこれはどうだろう。
そうだな。これは契約解消が出来ない。
その会社の中でした契約はクーリング・オフが効かない。
何十万円もする英会話のセットを買いますなんて契約しちゃったら、払うまで付きまとわれる。
場合によってはヤクザに脅かされたりする。
仕方なく先方の紹介するサラ金から金を借りて払うと、後は、利息が利息を産んで何十万円の借金がたちまち何百万円になる。
だから絶対に敵の城の中に引っ張りこまれないようにするんだな。
この制度は、国民の全員が何時でも正しく理性的に判断が出来るならいいけれど、中には人がいいって言うか、すぐにおだてに乗せられたり、また、脅かされたりして契約して、後で困ってしまい、警察や裁判所に泣き込んで来る者が多いので作られた法律だ。
温泉などに招待してホイホイしてくれたから、契約して上げないと悪いような雰囲気にして、悪い土地を高く売り付けられてしまっても、温泉で契約したんだからクーリング・オフがきき、よく考えたら損だと思ったら一週間以内なら取り消せる。
さんざんご馳走になって、それこそ芸者さん呼んで大騒ぎ、それを全部先方からのおごりにしてハイサヨナラって言うんだから、決して誉められた事じゃあないがな。
何? そういうのを探して、片っ端から行っちゃう?(笑声)
後でクーリング・オフすりゃあ構わない、ただでご馳走になれるか。
でも分からないぞ。その温泉が向こうの事務所なのかも知れないぞ。(笑声)
所で、テレビ等でよく問題になる霊感商法ってのがある。
これはテープのようなのと違って、若者ではなく、迷信に引っかかり易いご老人向きだがね。
あなたの身の上に先祖の魂の呪いがかかっている。
それを取り除くには、この壺を買って毎日拝んでいるといい、なんて事を薦める。
一人暮らししている老人は何かと心淋しいから、巧い具合に話を持っていかれ、身の上話をさせて、お婆さんずいぶん苦労されたんですねえとか、お爺さんずいぶん肩こってますねえ、少し揉んであげましょうなんてやられると、ころりとだまされて、この人は何ていい人なんだろう。(笑声) こんないい人の言う事に絶対に間違いは無い。
だけど残念ながらお金がない。となると、お婆さんが幸せになる為に壺を買うんですから、きっと息子さんが出してくれますよ。こんなにいいお婆さんですから、息子さんもとってもいい人で、ふだんは「クソババー」なんて言ってても、そりゃあ愛情の表現ですよ。(笑声) 心の中じゃお婆さんの事を本当に思っていてくれてるんですよ。(笑声) なんて言って調子に乗せて、息子の実印を出させて契約してしまう。
壺じゃあなくって多宝塔なんてのもある。多宝塔ってのは五重塔じゃなくって二重塔の模型だ。
こんなのを売りつけられて、さてその後が問題だ。ここで何と言うか知ってる者いるか?
そうだ。よく知ってたな。
これを買ったのはお婆さんの秘密ですから、七日間は絶対にしゃべってはいけません。たとえ息子さんにでもです。もししゃべったら、効き目が無くなっちゃうんです。(笑声) 一週間は買った事を誰にも見つからないように、そーっと隠しておいて下さい。(笑声) テナわけで、クーリング・オフの期間を過ぎてから、息子に見せたら「カーチャン、何ボケてこんな物買ったんだよ。サッサと返っしゃえよ。下らねえ迷信かつぐのもいい加減にしろよな」てな按配で親子喧嘩になる。(笑声)
でも返しに行って契約が解消されるならいいんだが、クーリング・オフの期間を過ぎちゃってるので駄目、警察だって裁判所だって駄目、ほかの事だったら天才的な能力を発揮する先生に相談に来ても駄目。(笑声)
うかつに見知らぬ他人を信用すると、こんなことになる。
ボンクラを引っ掛けて一儲けしようとしている奴等は大勢いて、そいつらは、手品師がどうやったら人の目をごまかす事が出来るか研究しているのと同じ、どうやったら人の頭をごまかして、金を取り上げる事が出来るか研究しているんだ。
人の目をごまかすプロが手品師なら、人の頭をごまかすプロはサギ師ってわけだな。
とにかく、巧妙に法律の抜け穴を研究して、言葉巧みに迫って来る。
引っ掛かってから、さあ困ったという訳で相談に来ても、先生がいくら大天才であってもお手上げだよ。ホーキングやアインシュタインでも駄目だろう。(笑声)
<脱線千一夜 第39話>
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