さかさはりつけ

 

 織田信長、豊臣秀吉、徳川家康と三人揃うと安土桃山時代の英雄だが、ホトトギスにかけてこの三人の性格を言った歌があるが知ってるかな。(笑声)

何だって? さっきの社会の時間に習ったばかりだって? (笑声)

だったらみんな知ってるよな。信長の血気を表わして「鳴かぬなら 殺してしまえ ホトトギス」 秀吉の機略を表わして「鳴かぬなら 鳴かして見しょう ホトトギス」 家康の深謀を表わして「鳴かぬなら 鳴く迄待とう ホトトギス」とは、後世の人達が評したのだろう。

このほかに「織田がつき 羽柴がこねし 天下餅 座りしままに 食うは徳川」(笑声) 何だ、これも社会の時間に聞いたばかりか。何だか社会の復習してるみたいだな。

所でこの三人の中で一番人気があるのは誰だろう。

そうだな。秀吉だな。

家康は憎ったらしい狸オヤジなんて言われているし、信長は短気で怒りっぽい性格が禍いして家来の明智光秀に殺されちゃうし、その点、貧乏人に生まれた日吉丸が努力と運で日本一の武将になったというのは、庶民からすれば、あこがれの星だからな。

 

 所がこの稀代の梟雄の豊臣秀吉は、知謀と機略をもって知られるが、いやいや前の主人の信長に似て中々の短気者だったそうだ。

カーツとなると、何するか分からん。何時キレちゃうか分からない。(笑声)

ある時、大坂城の門に、夜中に誰か来て「奢れる者 久しからず」って書いてある紙を貼って行った。

命懸けの冒険だよ。

学校の中じゃあどんな悪さをしたって何のこたぁない。

散々悪たれたあげく「先公、殴ってみやがれ、教育委員会に言いつけてやんぞ」なんてこきゃあがる。(笑声)

つまり、甘ったれで、社会がそれを許してんのさ。

所で今の「奢れる者 久しからず」って文句は、何の事か知ってるか。

オッ、知ってる者いたな。その通り平家物語だ。

 祇園総社の鐘の音 有情無常の響きあり

 沙羅双樹の華の色 生者必滅の理を現す

 奢れる者久しからず

と続く訳だ。奢る平家は久しからず。藤原を追い出して最高権力を握った平家は、武士の心掛けを忘れ、贅沢三昧に遊び惚けていた為に、全国各地から起こった源氏勢に追い落とされ、壇の浦で全滅してカニになっちゃった。

平家ガニ見た事ある者いるか。(笑声)

何だって? この間、理科の時間に見た。何だか今日は日が悪いや。(笑声)

で、とにかく、秀吉を平家になぞらえて「こんなに贅沢していたって、気の毒だが何年かすりゃあ豊臣家は滅亡だよ」ってからかわれたので、秀吉が怒るまい事か、のぼせ上がって、顔が真っ赤になった。

でも、もともとがサルなんだから、あんまり変わりばえがしなかったかも知れない。(笑声)

カッカッして「絶対に犯人を捕まえろ。見つけなけりゃお前達門番共は死刑だ」と言われたので、門番達は必死で探したんだけれど分かるわきゃないよ。

だったら秀吉はどうしたろうか。

門番の17人、全員死刑だ。それも、耳と鼻を削がされて、さかさはりつけにされた。

耳と鼻を削ぐって言うのは秀吉の得意だったらしく、朝鮮に侵略した時にも、捕虜達の耳や鼻を削いで、戦利品として日本に持って来させ、地面に埋めてその上に勝利の碑を建てたり、あまりにも年貢が、つまり税金が高いので百姓一揆があった時にも、強引に女子供まで、まるで原爆のように皆殺しにしてしまったり、けっこう信長に劣らず残虐な事をやったようだ。

それにくらべて家康は、狸オヤジなんて言われていても、そう残虐な事はやらなかったみたいで、あまり恨まれなかったから、最後に天下を取ったのだろうよ。

これこそ本当の「情けは人の為ならず 巡り巡って己が為」って訳だ。

何? 先生、宿題出すのを止めれば巡り巡って自分にいい事があるだろうから、今日は宿題出すのを止めろだって。(笑声)

いや、先生はどうなってもいいんだ。さかさはりつけになっても構わない。せいぜい宿題出してみんなに成績良くなってもらおうと思ってる。

我が身を捨てて教育に邁進している。

これこそ教師のあるべき姿、教育者の鑑であろうな。(笑声)

 

<脱線千一夜 第42話> 


前へ戻る
メニュー
次へ進む