サムライアリと軍隊
サムライアリって言うのを知ってるかい。兵隊アリじゃなくってサムライアリだよ。
何? 奴隷を使うアリ、そうだ、自分じゃ仕事をしないで奴隷を使うアリだ。
そのへんにいる普通のアリは黒山アリって言う。
サムライアリはこの黒山アリの巣を襲撃して、幼虫や蛹などを沢山かっぱらって来る。
アリの引っ越しだなんて言うのがこれで、引っ越しじゃなくって子女誘拐だ。(笑声)
奴隷達が死んで労働力が不足したら、又、黒山アリの巣を襲撃して誘拐して来る。
奴隷になっている黒山アリは生まれてからずっとサムライアリの巣にいるのだから、自分はサムライアリの仲間だと思ってこの襲撃に参加して、サムライアリの指示通り、黒山アリの巣から幼虫や蛹を強奪する手伝いをする。
何にも知らないんだから、気の毒なもんだ。(笑声)
何故、黒山アリは反撃しないのかって?
蜜蜂なんかはスズメ蜂に襲撃されると必死で反撃するらしいな。これこそ本当の必死なんだ。
蜜蜂の針はどういう訳か一回刺しただけで根元からもげてしまう。
針がもげた蜜蜂はもう生きていけない。死んでしまう。つまり特攻隊のようなものだ。
スズメ蜂は大きい顎で次々に蜜蜂達を噛み殺し、鋭い針で蜜蜂達を刺し殺すが、蜜蜂の特攻隊はスズメ蜂の弱点の腹部を狙って攻撃する。
後は数の勝負だ。蜜蜂が多ければ、スジメ蜂は仲間の大勢を失って敗退、スズメ蜂が多ければ蜜蜂は全滅、成虫から幼虫から蛹まで全部スズメ蜂の餌になってしまう。
所が黒山アリはサムライアリに反撃しない。何故だろうか。というと、つまり、黒山アリはバカなのである。(笑声)
バカである一つの例として、黒山アリにそっくりなクモがいるが、このクモは黒山アリに混じって巣の奥深くまでやって来ると、その辺の卵や幼虫を手当たり次第にムシャムシャ食べてしまう。
それを、そばにいる黒山アリ達は放っておく。これ一体なんじゃいね。
例えば仮にオオカミの巣があって、オオカミの子が何匹かいる。
そこに腹の減ったハイエナがやって来て、そのうちの一匹をむしゃむしゃ食い始める。
又、そこに親のオオカミが帰って来て、別の子供に餌をやったり乳を飲ませたりしている。
隣ではハイエナがオオカミの子を一匹食い終って、又、別の子に食い付いている。
こんなことは考えられないね。所がアリの世界では通用するんだ。
私の仕事は子供達に食事の世話をする事です。それ以外の事をするとおせっかいと言われます。そうしてイジメに会います。(笑声)
つまり子供に餌をやるといった本能はあるが、子供を敵から守るといった本能はない。
だからクモが子供を食べていても、サムライアリが子供を盗んで行ってもあんまり気にしない。
さて、所で一つの黒山アリの巣で二つのサムライアリの集団が出っく合せて、大戦争になったのを見た事がある。
先生が小学生の時だ。
普通のアリの何倍もの大きさのアリがお互いに腹を食い合って戦っている。
不思議な事に、一匹のアリを寄ってたかってやっつけると言った方法じゃ無くって「よき敵、ござんなれ、見参見参」とばかり1対1で組み合って戦っている。
近頃のワルガキのイジメとは違って、葉隠精神、武士道に乗っとった対決である事は、もって君達、規範とすべきものである。
例えアリでも、何しろサムライだもんな。(笑声)
でもよく見ると、剣豪小説の様に、正宗の名刀でバッタバッタと敵をなぎ倒すと言うのではない。1匹で死んでるのはない。2匹で食い合って死んでいる。
食い付いて離さないから、逆に食い付かれてしまい、両方とも死んでしまう。
これが数学で言う1対1対応って奴だ。(笑声)
結局、数が多い方が勝って、生き残ったサムライアリが黒山アリの巣の略奪をする訳だろう。
孫子の兵法をちゃんと勉強してあれば「敵を知り、己を知れば百戦危ふからず」だから、敵の数が多けりゃ、こりゃかなわんと逃げて別の黒山アリの巣を探す。敵の数が少なけりゃ、しめたとばかり皆殺しをやると作戦がたてられるがナ。
何? 自分達も大勢死んじゃう。そりゃ戦争だからしょうがない。
だから先生がサムライアリだったらば、元気良いが頭の中はいささか足りないいじめっ子みたいな奴を「我が民族の危機だ! 民族の誇りの為に命を捧げろ!」なんてアジって戦争の第一線に突っ込まして、自分は黒山アリの巣の略奪に回るよ。(笑声)
<脱線千一夜 第44話>
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