大島アンコ
セクハラと桃の節句の話はしたね。
だけれど町でよく見かけるセクハラがある。それは伊豆の大島の宣伝だよ。
伊豆の大島って言うと、必ず出て来るのは、紺の絣に赤いたすきの女の人だ。
何て言う? そうだな。大島アンコだよな。
大島の若い娘さんはあんなふうに昔から有名だが、男の方は出て来ない。
なぜ大島では娘さんだけが、大島アンコとして有名なのだろうか。
大島アンコが出て来る歌も「東京の人よさよなら」「島の娘」「アンコ椿は恋の花」「ハブの港」ときりがないけど、その大島アンコが何故セクハラか、それについての話をして見よう。
昔、大島には大きい港が無かった。
そこで、北の方から江戸に向かっている船は、相模湾を横断して、伊豆の南端の下田港に入った。
昔の日本の船は帆掛け舟で、都合のいい風なら走れるが、そうでない時は暫く港で風待ちをする。
ヨットや外国の帆船は向かい風でも目的地に行けるが、帆掛け舟はそんな器用な事は出来ない。
房総半島の沖合いで向きを反対に変えて、江戸に向かうなんて芸当は出来ない。
こんな訳で、相模湾を横断して、遥か下田港迄行き、そこで都合のいい風を待っていたんだが、いくらなんでも下田迄は遠い。
もっと近い所で風待ちが出来ないかと考え、大島のハブの港が選ばれた。
ここは海岸の所に小さい噴火口があった。
この噴火口を大きくして港にしようと工事が行われ、帆掛け舟が風待ち出来るようにした。
元はというと火山の噴火口だが、今、中心はずっと北の三原山になってるから、まあまあ安全という訳だ。
ハブに行った事ある者いるか。うん。何人かいるね。
ここで大島アンコの話に戻るが、このハブの港では年から年中帆掛け船が出たり入ったりしているから、そこで働く人達は男も女も大勢いたと思うけれど、男の方は全然駄目、歌にも何にもなりゃせん。
女ばかりが大島アンコとしてもててんのは、何故だろうか。
大島にやって来た船に乗っているのは、荒海を命懸けで乗り切って来た船乗り達、命と引き換えの商売だから、相当の小遣いは持っているだろう。
そうして、風待ちをしている何日間、陸に上がった海の男達は仕事が無い。
金は有って暇を持て余しているっていやぁ、どうなるのだろう。
え、大島見物?
いや、駄目だ。
いつ、都合のいい風がくるか分からない。
その時にすぐに出帆の出来るように港からは離れられない。
何だって? 奥さんや恋人にお土産を買う?
勿論そういった殊勝な人もいたろうが、船乗りは風任せ、波任せ、兵隊と同じように明日の命も判らないんだ。
板子一枚下は地獄と言われてる様に、いつも死を背中に背負って仕事しているんだ。
オヤ、ニヤニヤしてる奴がいるな。
その通り暇が有って金が有って、その上ピチピチの男盛りだったら……どっかから苦情が来るかも知れないからこの辺でよそう。(笑声)
まあ、彼等からすれば、明日をも知れぬ身の上だから、どうしても刹那的な享楽に走ってしまうのは、致し方ないな。
こんな訳で大島アンコを観光ポスターに使うのは、気が知れない。
セクハラ問題で男生徒も女生徒もごっちゃにして番号つけろなんて騒いでる女史達が、なぜ放っとくのか理解に苦しむよ。
京都の小原女もそうらしい。
大島アンコも小原女も可愛らしいかっこしてるのは、つまりは、商品価値を高める為で、トッテモカワイイ魅力的ナ「○○婦」の制服みたいなもんだったんだろう。(笑声)
<脱線千一夜 第56話>
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