アリューシャン列島と侵略記念切手

 

 公害問題が騒がれて、四日市ゼンソクなんてのが問題になったのはみんな知ってるな。

だけど、中国はこの比じゃないらしい。

次から次へと大工場が建設されて、煙突から物凄い煙、日本の石油コンビナートや自動車の排ガスなんてもんじゃないらしい。

あんまり酷いから、出来るったけ煙突を高くしろって訳で、高い空に煙を吐き出すと、それが気流に乗って遠くに飛んで行く。

成層圏なんて言われる高い空は、いつも西風が吹いている。

日米戦の時は、この風に乗せて爆弾をつけた大きい風船を飛ばし、三日がかりで太平洋を横断させてアメリカ大陸に落っことすといった、つまり、原爆なんかと違って金のかからない極めて独創的な事をやった。

日本人は昔から猿のようにマネばかりしてる、外国から品物を買わないで見本だけ取り寄せて、それを調べて、真似して作っちゃうなんて、悪口ばかり言われてたが、この風船爆弾は日本の独創、それに巧く行っても山火事やほんの数人の犠牲者で済む。

つまりこれは、実際の効果は別として、いつどこに落ちて来るか分からないといった神経戦で、女子供を狙った非戦闘員相手の皆殺し用の原爆なんかに比べ、こんなに平和的な兵器はない。

世界に誇れる大発明だ。(笑声)

 

 まあ、この東に向かって風船爆弾を送った西風が、今度は逆に、西から中国の工場の煙を日本に持って来る。

もし日本が山脈なんか無くってまっ平、日本中全部平野だったら、この煙はそのまま風に乗って太平洋に行ってしまうだろうが、山あり谷あり凸凹だから、上昇気流や下降気流が入り乱れ雲が出来、中国からの煙を溶かした雨が降って来る。

これがつまり酸性雨というので、ゼンソクにはならないが、農産物や建物を傷める。

この煙の中には、悪い石炭を燃した時にその中の硫黄分から出る亜硫酸ガスや窒素化合物が混じっていて、それが酸性雨の原因だ。

なお亜硫酸ガスは、今、君達は二酸化硫黄という名で勉強してるよな。

先生なんかの頃は、二酸化炭素を炭酸ガスと言ったように、二酸化硫黄を亜硫酸ガスって言った。

所がこのアリューサンガスを勉強してる時に、日本の軍隊がベーリング海峡の南のアリューシャン列島を占領した。(笑声)

こりゃあ覚えいいやね。アリューサンとアリューシャン、おまけにアリューシャン列島は北の海だから、濃霧、つまりガスが出ると言うおまけも付いている。(笑声)

このアリューシャン列島の中で大きい島のアッツ島とキスカ島を占領したが、アッツ島の方はやがて米軍に攻められて日本軍は全滅、キスカ島の方は、もう守りきれないという訳で、夜、そーつと逃げて来ちゃって、それを知らない米軍がさんざん爆撃したり、艦砲射撃したりしておっかなびっくり上陸したら、日本軍はもぬけの殻だったなんて話は以前にしたな。

 

 所で、たまげた事に、この間アメリカでこれの記念切手を出したんだ。

島に大砲の弾か爆弾だかが落ちて爆発して白い煙が上がっている絵だ。

コリャ驚いた。アメリカさん、無人島をメチャメチャに砲撃やら爆撃したので、バカな事やらかした、これからこんなヘマはしないようにしようと反省してんのかと思った。(笑声)

然し大違い、「日本のアリューシャン列島侵略」と言う題が付けられている。

今、平和な世界を作ろうと世界中で手探りしている時に、何とまあ不謹慎、原爆記念のピアスをアルバカーキ原子博物館で売ってるように、半世紀前の話を持ち出して日本に対する憎しみをあおるような事をするのはけしからん。

たとえ不手際があったにせよ、ハワイに日本の爆撃機が突っ込む五分前に宣戦布告をする予定が、外務省の役人共がヘマで手間取って大分遅れちゃった時は、勿論のこと日本が悪いので、これを逆手にとられて「日本は卑怯だ。後ろからいきなり殴りかかるような事をする。こんな野蛮人は地球上から抹殺してしまえ」なんて日本タタキの材料にされた。

然し、戦争中に戦略上の拠点であるアリューシャン列島を、日本が占領したのは、戦争中の当然の戦略だから、これを日本の侵略なんて言うのは間違っている。

これがつまりアメリカの権力者による日本叩きの世論操作と言う奴で、アメリカの一般の庶民も日本の一般の庶民もお互いに憎しみ合いはしていないが、両方の権力者が自分達にとって都合の善い様に吹き込む。

こんな切手ばかりじゃなくって、あらゆる機会に「日本は悪者だ。侵略者だ。歯をむき出した黄色い猿だ。(笑声) 原爆で虐殺されたのも当然だ。ヒットラーとフセインと日本人は悪魔だ。(笑声)」なんて四六時中やられたんじゃあ、本当にその気にさせられちゃうよ。

先生も子供の時、中国人はチャンコロといって劣等民族、アメリカ人やイギリス人は鬼畜米英といってアジアの人々を奴隷のようにこき使う悪魔と教わったが、本当に正義の為に、日本はアジアの平和の確立の為に戦ってると信じてた。

戦後、ある先生が「本当に教育の力は凄い物だ。戦争中は日本人の全員が、日本は神の国で正義は必ず勝つって信じてたんだからなあ」と言った事を覚えているよ。

とにかく朝から晩まで、連戦連勝、無敵皇軍、鬼畜米英、一億一心、八紘一宇、進め一億火の玉だ、断固と守れ太平洋、護る大空鉄の陣、いざ行け強者日本男児、何だか右翼の宣伝カーみたいになっちゃった。(笑声)

とにかく日本人の大部分は、天皇陛下の為に、つまり大日本帝国の為に死ぬのは当然だと信じてた。

信じてない者もいたろうが、「蟹工船」を書いた小林多喜二のように虐殺されちゃってる。

 

 このような、日本独自の天皇中心民族社会資本主義的な物は、明治の始めに、岩倉使節団が欧米諸国の制度を研究して作った物らしい。

つまり、あちらさんにはキリスト教という大きい背骨があるが、それに当たる物が日本には無い。

そこで岩倉は公家の出身であったので、その頃の尊王の思想をうまく加工して、天皇中心の国家の形態を作った。

天皇中心と言っても実権は公家や政治家や軍人や経済人が握るんだがね。

天皇を敬ってるようだが、実際は大違い。天皇を「玉」と呼んで、捕虜の様に捕まえておく。(笑声)

そうして、都合の善い命令を作っては天皇に相談なんかしないで天皇の判を押して交付する。

明治天皇なんて惨めなもんだと思うだろうが、親父さんの孝明天皇は気の毒だった。

誰に吹き込まれたのか、外国人は鬼のような奴ばかりで、鎖国をやめてそんな奴とつきあったら、忽ち日本の国は亡んでしまうと信じていた。

尊王攘夷論が盛んで、幕府をぶっ潰そうとしている時はこれでいいが、幕府が潰れちゃったら、もう攘夷攘夷と何時までも騒いでいる者は邪魔だって言う訳で、孝明天皇は毒殺されてしまったらしい。

こんな訳で日本の国の背骨に当たる天皇制は岩倉達によって作られ、明治大正と実に巧く作動し、日本は既に発展している欧米諸国が目を見張るような大成長をする。

日露戦争では世界中の人々の予想に反して、世界でトップレベルの強力なバルチック艦隊を全滅させ、自軍には殆ど被害が無いという離れ業をやる。

岩倉を始め明治の元勲達は大した青写真を書いたもんだと思うが残念。やがてボロが出る。

何だろう。難しいやな。人口爆発だ。

これが大陸にはけ口を求めて進出し、既に進出している欧米の権益を蚕食して、最後には悲惨な結果に終った戦争に繋がったのは、みんなも知っての通りだ。

 

 話は前に戻るが、権力者達が利益を追求し、彼等の都合がいい宣伝に民衆を引っ掛けて、恨みも何も無い相手と命の取り合いをさせる。

今の、アメリカの国民が、以前の日本の国民の様に、簡単に宣伝に引きずられて好戦主義者にならぬよう、賢明であるように祈りたいね。

何だって? 成程、今の日本の余ってるドルで、アメリカの新聞に宣伝すりゃあいい。

そうだな。新聞だけじゃなくって、いろんな方法で宣伝しなくちゃ駄目だ。

今の日本の平和運動なんかは大いに宣伝して、ホレ、この通り日本人は「歯をむき出した黄色い猿じゃ、ありませんよ、好青年と美少女ばっかりですよ」ってな。(笑声)

 

<脱線千一夜 第57話>


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