ヘップパーンとスクーター

 

 君達は「ローマの休日」って映画を見た事あるかな。

ビデオでもいいよ。

フーム、時代は変わったね。

じゃぁ、「ローマの休日」という題は知ってた者? これは多いね。

じゃ、この映画の主演女優のオードリー・ヘップパーンを知ってた者? これも結構いるね。

この間、この日本ではマリリン・モンロー以上に人気があるって言われるオードリー・ヘップパーンの話を読んだが驚いた。

大戦中にはレジスタンスやってたって言うからたまげた。

レジスタンスって何だろうね。

そう。地下活動だね。

地下と言っても石炭掘ってるんじゃないよ。(笑声)

ドイツ軍の占領下でいろいろとワルサをする事だ。

通信用の電線を切ったり、線路の釘を抜いて軍用列車ひっくり返したり、勿論その為に大勢捕まって死刑にされたらしいが、とにかくしつっこくしつっこくワルサを続けたんだ。

そのレジスタンスに加わっていたとの事だが、有名な女スパイのマタハリみたいに、色目使って敵軍の将校を騙して、秘密の情報を聞き取るなんて、気の利いた事出来る訳はない。

まだ十代になったばかりだろうから、色目なんか使えば、ヤブニラミと間違えれる。(笑声)

そこで、踊り子をやって、貰ったお金をレジスタンスに寄付していたと出ていた。

踊りの見物は恐らくドイツ軍だったろうから、お金はドイツ軍から出発してオードリー・ヘップパーンを経由してドイツ軍をぶち壊そうというレジスタンスに行く。皮肉なもんだ。(笑声)

まあ、大戦中食料不足で、その上発育盛りの時に、お金をレジスタンスに寄付しちゃったんだから、あんな、目ばかりでかい栄養失調のような女になったんだろうが、それが、変わった魅力があるってウイリアム・ワイラーという大監督が目を付けた。

相手役としてグレゴリイ・ペックという有名な俳優は決まったが、会社は、そんな、訳の分からない子供みたいなチビで痩せっぽちの女に大金かけられないって訳で、この映画は人件費から何から何まで安上がりで済むローマで作られた。

所がこれが大ヒット、オードリー・ヘップパーンは大スター、映画会社は大儲け、今でもビデオテープがじゃんじゃん売れている。

 

 所で、この「ローマの休日」で先生が思い出すのは、アン王女がスクーターに乗って広場をメチャメチャに運転する所だけれど、あのスクーターの名前を知ってる者は居るかな。

おや、よく知ってたな。ベスパだな。

ベスパはあの頃世界で一番売れていてたスクーターだ。

そうして今、そのペスパはどうかと言うと、いくらかの手直しはあるにせよ、あの頃と殆ど同じ形で作られている。

つまり、半世紀の間、そのままだ。

同じようなのが自動車ではフォルクスワーゲンだな。

ヒットラーがポルシェ博士に命じて作らせたものと言われ、この名車もモデルチェンジなし。

日本じゃ三年位でモデルチェンジ競争、この違いは何だろう。

でも、それをやったから日本は自動車王国に成ったのかも知れない。

昔、アメリカでフオードがT型自動車で王座を築いたのは良いが、市場調査をやらず、既に飽きられてしまったT型に固執して他の追従を許し、トップを奪われてしまったという話は有名だ。

 

 さて、肝心のアン王女のオードリー・ヘップパーンは歳をとってお婆さんになり、とうとう死んでしまったが、本やポスターの中の彼女はいつまでも可愛く若々しいので、実際の写真やニュースを聞いて、びっくりしたなんて事もよく聞く。

人間のような動物の細胞は、細胞分裂のカウンターが染色体の上のDNAの隅に有って、ある回数までで分裂は終わり、無限に増殖出来ない様になってるそうだ。

だから、ある一定の時間の寿命が有って、それ以上は生きられない。

秦の始皇帝なんて阿呆な俗物が、必死になって不老長寿の薬を追い求め、インチキ呪い師にお金取られ、果てはそれが原因で、さしもの大秦帝国は一代で瓦解したことはみんな知ってるな。

だったらそのカウンターを取ってしまえばいい、そうすれば、何時までも細胞分裂するから、始皇帝の夢は実現するなんて訳にはいかない。

カウンターを取って細胞分裂を自由化すると、コントロールが効かなくなって、人間社会の人口爆発のように細胞分裂爆発が始まる。

これは一体何だろう。その通り、ガンだな。これじゃ不老長寿どころか、かえって逆効果だ。

カウンターを取り、かつコントロールを効かせる技術となると、これはまだまだ先の事だろう。

 

 何かで読んだんだけど、人間に「死」がある限り、人生は悲劇だ、というのがあった。

とするなら、「死」に対して正しく向き合う事だな。次のような漢詩を知ってるか。

  少年老易 学難成

  一寸光陰 軽不可

  未醒池塘 春草夢

  庭前梧葉 既秋声

 「人生は長い様で短い物だ。若いうちにしっかりと勉強しないと、年を取ってから後悔するぞ」という事だ。

スクーターのベスパは、全然変わり無く町を走ってるが、オードリー・ヘップパーンはもう死んじゃったんだからなあ。

エ? あの映画のベスパはとっくにポンコツになっちゃって、今、町を走ってる奴は別のスクーターだって。(笑声)

ダメだよ。そんな事言っちゃあ。大事な人生の教訓をやってる時にサ。(笑声)

 

<脱線千一夜 第58話>


前へ戻る
メニュー
次へ進む