バスはどこから出るか

 

 コナイダナ。仙台に用事があって行って来たんだ。そしたら、たまげたよ。

「仙台は 千台じゃなくって 千万台」(板書)

と言う洒落があるそうだが、東北の中心だけあって自動車が多い。

大きい交差点は、横断歩道なんか無い。

地下道や歩道橋で全く歩行者無視、老人や身体障害者には暮らしにくい所かも知れないね。

その交差点で、信号が変わるとギッシリ詰まった自動車が一斉に走り出す。

場所によっちゃあ片側で六車線というのもあった。

つまり、信号が青になると大きい六台のトラックが一斉に走り出すんだ。壮観だね。

道端に適当に駐車している不埒な車なんて無いから、六車線をフルに使っている。

右側は六車線程は無いが、左右で十車線以上ある。

だから飛行場の滑走路のようでジャンボ機だって降りて来られるだろう。

マ、そんな訳でな。聞いた所によると、仙台の中心部辺りでは、大小の道路や駐車場、それに新幹線や東北本線その他の鉄道と空の便の仙台空港、つまり交通に使う土地が全体の三分の二で、残りの三分の一に人間様が押し詰められて、商売したり住んだりしてるそうだ。

東京のこの辺じゃあ交通に使う面積は、せいぜい二分の一位だろうな。

 

 所で仙台には新幹線で行った。わずか二時間で着くから早い物だ。

昔、夜行で行った事があったが、席には座れたものの、混んじゃって寝られやしない。

翌日、頭が痛くて困った事があった。今は便利なものだ。

じゃあ帰りはどうしようかと思ったが、時間は十分あったので、今度はバスを使ってノンビリ帰ることにした。

何? バスの方が安いからだろうって。

それもある。何しろ新幹線の半値以下だもんな。(笑声)

そこでバスの駅を探しに行った。

まあ、こんなことは土地の人が一番よく知ってる。

そこで、ある商店の小母さんが店の前を掃除していたので、聞いたら「ああ、それはこの先の広瀬通りから出ますよ」との事である。

礼を言って広瀬通りの方に向かったが、道を聞くのは一回じゃ駄目なんだ。その人がうっかりと勘違いしてるかも知れないし、わざとウソ教えて面白がる悪い奴かも知れない。(笑声)

わざとでなくっても、少しボケてる人は、とんでもない事を言っちゃう事がある。

昔の一高、今の東大の生徒が何人かで奥秩父の山に登った時、土地の人だと思って道を聞いたが、少しボケてた人に間違った道を教えられ、嵐の中で遭難して大惨事になった事があった。

「山の犠牲」と言う有名な本に出てるから、関心の有る者は読んでごらん。学校の図書館にもあるよ。

といった訳で先生は出来るたけ二回聞く事にしている。

今度は向こうから若いサラリーマン風の人が二人来たので、呼び止めて聞いてみた。

すると「ああ、それはこの仙台駅の反対側から出ますよ」って訳だ。

さて困った。二つの話が違う。

広瀬通りか駅の反対側か。君達ならどうするね。

何? また聞く? 多数決にしようって訳か。

でも、三人目の人も別の事言って、なお混乱するかも知れないぞ。テレビ塔の下とか言って。(笑声)

で、先生は最後の手段に訴えた。最後の手段と言うのは、交通公社に電話をする事だ。お金はかかるけれど。(笑声)

聞いてみたら何のこたない。東京駅行きは広瀬通り、新宿駅行きは駅の反対側から出発。(笑声)

時間を聞いたら、丁度新宿行きが間もなく出るので、早速予約をして駅の反対側に行き、バスで帰って来た訳である。

まあ、そんな訳で、商店の小母さんも二人のサラリーマンも、両方とも正しかったんだが、訳が判らなくなった時にも、沈着冷静に正しい判断をする必要がある場合に出くわす事がある。

だけどいささかオーバーになっても困るな。以前に「間宮林蔵」の話をした時に、先生の話なんか嘘かも知れないってわけで、社会の先生の所に確かめに行った奴がいたよ。(笑声)

 

<脱線千一夜 第61話>


前へ戻る
メニュー
次へ進む