シベリヤ抑留 

 

 こないだから、ナツメロが続くが「異国の丘」と言う歌を知ってる者いるか。

いないか。時代は変わったね。かつて、ヒット歌謡のトップだったんだがな。こんな歌だ。

今日も暮れゆく 異国の丘に 友よ辛かろ 切なかろ

我慢だ待てろ 嵐が過ぎりゃ 帰る日が来る 春が来る

何を歌った歌だろうね。え、シベリヤ、歌は知らなかったのに、何故知ってたの。何となくそんな気がした、ふむ、成る程ねえ。

今日は暑いから、寒い雪と氷のシベリヤの話をしよう。いくらかでも涼しくなるかも知れないからな。(笑声)

 

 第2次大戦の末期、カイロやボツダムで、アメリカやソ連は、戦争が終わってからの日本やドイツの処理について、話し合いをした。

ドイツやその首都のベルリンそれから朝鮮については、アメリカやアメリカ側の国とソ連とが、半分ずつ占領することになった。

所で日本だが、ソ連はこれも半々にしろと言い出した。

アメリカにすれば、何年間も日本と戦って、自分の方も結構ひどい目に遭わされたこともあるのに、日本が戦闘能力を無くしてしまった時に、わっと火事場泥棒したような国には半分もやれない。

ソ連の方じゃ、北海道をよこせと言い張ったのだが、とうとうアメリカは断っちゃった。際どい所だったね。

もし、ソ連の言うことにアメリカが賛成していたら、朝鮮戦争の時に、日本戦争に拡大していて、明治の戊辰戦争のように、日本人同士が北海道人対本州四国九州人に別れて、憎み合って殺し合いをする所だった。

さてこれで引っ込むソ連じゃない。どうしたかというと、じゃ、中国大陸に散開している日本の兵隊を、戦争犯罪人として捕まえて、シベリヤで刑に服させると言った。

ここ迄はアメリカも止められない。

いや、アメリカが北海道をソ連に渡さなかったのは、そんなところにソ連が出てきたんじゃ、自分の国が危なくなると言うわけで、あくまで自分の国の都合、日本の事を思ってやったんじゃない。

中国大陸の日本の兵隊がどうなろうと、全く関心が無かったのだろう。

と言うわけで、ソ連は北海道の代わりに、中国大陸の日本の兵隊を捕まえて、戦争犯罪人として、シベリヤに連れて行った。

戦争犯罪人だったら、日ソ中立条約を踏みにじって、いきなり攻め込んで来て、日本人の非戦闘員を殺していったソ連兵の方が、よほど、戦争犯罪人なんだがね。

とにかくこのようにして、ソ連に送られた日本兵にとっては、長い長い収容所生活が始まる。極寒のシベリヤの荒野の中で、ろくな物食わされずに働かされる。

一日の仕事量をノルマって言うんだが、このノルマを達成出来なけりゃ、飯も貰えないし、部屋で休むことも許されない。零下何十度と言う屋外で凍死させられてしまったという話もある。

又、これについては、ドイツ兵はとても結束していたそうで、ソ連兵から無理な要求をされると、ストライキをやって自分達の要求を通したりしたらしいが、その辺、なんとも日本人というのは、どうしようもない奴が多い。ソ連兵におべっか使って、助手にしてもらって、少しでも楽な役に回ろうとする。助手と言ったってつまりは「奴隷頭(どれいがしら)」てなもんだ。(笑声)

この奴隷頭になった奴が自分の組の成績を上げて、ソ連兵に良く思われようとして、仲間の日本兵をこき使うんだ。このような非人間的な重労働で全体の四分の一位の日本兵は死んでしまった。

奴隷頭もそうだが、日本人というと何かそういった、汚い根性がミエミエになることがある。

江戸時代の牢屋の牢名主なんて物もそうだがな。牢屋の中を牢名主、つまりボスとその子分達が何人かで仕切っている。

畳は上げてしまって、ボスと子分達が使い、ボスは10枚ぐらいの畳を積んで、その上に大あぐらをして、夜はゆっくりと横になる。

一般の罪人は一枚の畳の上に何人も座らせられて、横になって寝ることすら出来なかったということだが、全くの所、この汚い根性ってえのは日本人の大きな欠点だな。

大体が汚い根性ってえのは、農業国じゃなくって牧畜を生業にしている国に多いらしいんだが、日本は例外らしい。だから学校でもつまらないイジメ問題なんかが起きる。

 

 まあ、そんな訳でソ連にはひどい目にあわされた日本人が多かったが、今は、そのソ連はぶっ潰れて潜水艦も爆撃機もメチャメチャらしい。

原子力発電所が大爆発して、ロシヤだけでなく他の多くの国にも死の灰を降らしたのは知ってるな。そうだね。チェルノブイリだな。

経済も困窮して、日本の比じゃないらしい。とにかく物凄く寒いのに、暖房の石油がないらしい。

そうすると、ザマーミヤガレ、火事場泥棒みたいな事やって、南サハリンやクリル諸島かっぱらって、その上に日本兵を大勢捕虜にして奴隷労働させ、相当の犠牲者出して、ワリーコトばかりしやがったんだからイイキビダー。(笑声) なんて思ったりしては、少しばかり違う。

と言うのは、今、ロシヤで一番困ってる、一番ひどい目に合わされてるのは誰だろうか。日米戦やソ連の不法な侵略で、一番ひどい目に合わされた日本人は、言うまでもなく一般の市民だった。仕方なく戦争に引っ張り出されて殺されたり、原爆で蒸発させられたりして。

だから、今、ソ連いやロシヤで一番ひどい目に合ってるのは、何の罪もない一般の市民なんだ。国家の支配者、戦争指導者が自分達の利益を追求して、一般市民を騙し、情報を操作して相手の国への憎しみをかき立てて、戦場に送り込んでいるんだ。

その辺をよく考えて、物事を判断しなけりゃいけないな。とにかく為政者達はマインドコントロールで一般市民を騙して、相手国への憎しみを駆り立ててるんだ。

先生なんか直接体験してるからよく知ってる。

 

 戦争が始まる前は、中国人でも孔子、孟子、孟嘗君、韓信とか言った偉人が本に書かれていたが、日中戦争が始まったら、みんな消えてしまった。

エジソン、ワシントン、とか言った連中も日米間の風雲急を告げると、さっと出版物から無くなってしまう。

その代わり、東郷元帥、乃木大将、爆弾三勇士、橘中佐、広瀬中佐、佐久間艇長ETCと戦争の英雄一色になる。

次から次へと命を捨てて戦った軍国美談を聞かされちゃ、頭がおかしくなっちゃうよ。

学校じゃ、教練の時間に、爆弾持って敵の戦車の下に飛び込む練習をする。勿論、その時は、本気でやる気だったよ。中学一・二年の子供だったがね。幸か不幸か、それやる前に日本は戦争に負けて、このように、今でも生きてる。(笑声)

負けたら早速、東郷、乃木、広瀬とかいった連中は本から一掃され、エジソン、ワシントン達の復活だ。

野球も「ストライク」や「ボール」と言えるようになった。何? それを日本語で何て言うのかって? 「ストライク」は「ヨーシ、1ポン」、「ボール」は「ダメッ!」だ。(笑声)

 

<脱線千一夜 第68話>


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