神様
前にレミングの話をしたな。レミング達は、川だろうと海だろうとこの先に我々が求めて止まない「乳と密の流れる楽園」があると信じて大行進をしてくる。
神様がいるかどうかなんて事もこれに関係してる。人間が猿から進化してくる途中で、誰だか知らんが「神様みたいに頭のいい奴」が、神様を発明した。(笑声)
これは史上最大の発明だ。この大発明を何に使うかというと、電気にしろ飛行機にしろ原子力にしろ、まず戦争だ。先に大発明をした方が戦争に勝つ。
と言ったわけで、戦争になると神様が自分の方についている方が強い。ヤマトの国はアマテラスが守っている。絶対負けるはずはないと思いこまされている、つまり、洗脳されているから、神を信じてない国よりも全然強い。強けりゃ勝つ。というわけで、神を信じてる限り、不敗である。
そうだろう。負けちゃった方はお仕舞いだ。満足に子孫を残せない、殆どが殺されちゃうと言ったわけで、人間も長い間かかって、神様を信じてる者が生き残った。だからレミングを笑えない。
でもな、何だ、神仏は人間が考えたものか、じゃ、神も仏もあるもんかというのは、いささか困りもの。
先生だって、自分の内には神棚があって、日本の国の総元締めのアマテラスを毎朝拝んでる。お盆やお彼岸なんかの時は、先祖のお墓に言ってお線香を上げるし、親戚の法事の時には、儀式だからサンスクリット語の何やら訳が分からないお経だって聞いてくる。
あくまでこれは、このようなことを通じて、自分の心をきれいにしたり、死者を敬ったりするための物だ。お賽銭一円ぱっちじゃ駄目だ、十万円も上げると、きっといいことがあるだろうなんて気張っても駄目。
福沢諭吉が子供の頃やった大実験がある。アマテラスのお札は大事なものだから、大切に扱わなけりゃ駄目だと大人達に言われ、もしそうだったら、もしもそれが本当だったなら、たちまちに神罰が下るだろうって考えて、お札に小便を掛けてみた。(笑声)
先生だって子供の頃に言われたよ。お札にオシッコかけるとオチンチンが腐るってな。(笑声) でも先生はやんなかった。(笑声) 福沢諭吉は大した度胸だ。明治の頃生まれて、まだ、迷信が幅を利かせていた時にな。
所で勘違いしちゃいけないのは、諭吉が何故そんな事をしたかって理由だ。
そのころの日本は、まだまだ文明国家に遠い未開発の国で、迷信やお呪いの類が、幅を利かせていた。
目が悪いと言ったら、お地蔵さんにあげてある水を押し頂いてきて、それを目の中に差す。病原菌がうようよしてる水を目の中に入れれば、治るどころかもっと悪くなってしまう。
こんな事は仏教の信仰とは、全く無縁の物なんだ。
さっき言ったけれど、福沢諭吉がやった大実験は、先生もやんなかったし、そんな事やろうなんて思う者はいないな。
何故かというと、お札を粗末にすると罰が当たるなんてのは、科学的に考えて、あり得ない事だと言うことを知ってるからだ。諭吉も子供心に、本当の宗教はお札とかそんなちゃちなもんではないと、直感的に感じていたからだろう。
つまり、神仏にお辞儀するのは、それによって象徴された人間以上の尊い存在に対する帰依の表現なんだ。
授業の前後に先生にお辞儀するのとは違う。どっちかっと言うとこっちのお辞儀の方が、現世的な利益があるのは知っての通りだ。(笑声)
とにかくつまらない事に引っかかるなよ。たまに先生の家に来る銀行員の人だけど、大分以前に、バカらしいのに引っかかっちゃいましたよなんて言ってたので、どうしたのって聞いたら、つまり、新興宗教なんだ。
3人の人が来て、始めはアンケートのようなことを聞く、今の社会をどのように思うかとか、人生はどうありたいかとか、結構ためになりそうな話をする。
やがて、だんだんと話がそれてきて、あなたのような立派な人が報われないのは、運命が邪魔をしてるからだ。
その悪い運命を取り除くには、一つしか方法がない。悪い運命はあなたの使ってるハンコに宿ってるのだ。だからハンコを替えなさい。(笑声)
丁度良かった。今、私が持ってるハンコは、偉い宗教家が祈りを封じ込めた物で、これに替えれば、あなたの運命は、見違えるように明るく開けてきます。と言った塩梅で帰ればこそ。夜の7時頃来て、11時頃まで帰らない。(笑声)
こっちが人数が多けりゃ「何だ、おめえら、押し売りか、警察呼ばれんのが怖けりゃ、とっとと退散しやがれ!」なんて言って追い払えるんだが、3対1じゃ何としてもかなわない。
始めはやさしい顔してたんだが、場合によっちゃ、強盗にでも変身しそうなツラになってくる。仕方なく一番安いのを買って帰って貰ったとのことである。
一番安いと言ってもなんと「十萬円」、高いのは何百万円というのもあったそうだ。
こうなると、その神様はヤツラにとっちゃ確かにいい神様だが、こっちにとっちゃ疫病神だな。
後で、デパートに行って見たら、同じ物が二千円で売ってたとのことだ。(笑声)
<脱線千一夜 第80話>
前へ戻る メニュー 次へ進む