星は昴(すばる)

 

 以前に東京行進曲の「明けりゃダンサーの涙雨」っていうのが何とも分からなかったが、原作じゃダンサーじゃなくって、ワイフの涙雨だったって話はしたな。

歌なんて物は調子さえ良けりゃ、くっつけてある歌詞なんていい加減な物もある。ほじくり出しゃキリがない位だ。

所で一つ、これもさっぱり分からなかったのが、谷村新司の作詞作曲の「昴(すばる)」って歌なんだ。そうだな。有名な歌だからみんな知ってんな。

あの歌を初めて聞いた時には、いい歌だなって思ったんだけど、歌詞の意味がさっぱり分からない。そもそもが「さらば昴(すばる)よ」って言うのは一体全体何の事なんだ。

昴(すばる)ってのはプレアデス星団だな。グッドバイスターズオブプレアデスって何の事だ。(笑声) 何? 自殺しちゃう。(笑声)

じゃあ、何も昴(すばる)に限らず、なんだっていい。北斗だってオリオンだって織姫だって、死んじゃったら会えなくなっちゃう。犬でも猫でもみんなサヨナラだ。カラスでもブタでもな。(笑声)

それなのに何でか昴(すばる)だけを取り上げて、「さらば昴(すばる)よ」と言ったのは、とても昴(すばる)に思い入れがあるのだろう。

あんなにごちゃごちゃして幾つもの星がいるのは、先生の趣味からすると好きじゃないんだが、平安時代の超才女の清少納言は枕草子の中で「星は昴(すばる)」と言い切っている。

すると作詞者の谷村新司は俗人の先生なんかとは違って、清少納言のような、鋭い芸術的センスを持っているのだろう。

でも、そのような、芸術的センスに恵まれた谷村新司が、この汚れきった世の中で、まだ自殺した様子もなく、生き長らえてるのは、何とも不思議なことだ。(笑声)

 

 それから、これは自殺じゃないが、この間、別の話を聞いた。成る程と思える所もあるので紹介しとこう。

昴(すばる)つまりプレアデス星団は、星団の中でも散開星団と言われ、同じガスの塊から沢山の星が次々と生まれたものである。つまり昴(すばる)の星々はとても若い星なんだ。所が、何でか分からんが彼等の寿命はすごく短いそうなんだ。

普通、星の寿命というのは、大きくて重い星は短く、小さくて軽い星は長い。

大きくて重い星は、自分自身の重さでどんどんと押しつぶされて、中心は物凄く高い圧力で高い温度。じゃんじゃんと水素を燃していく。

水素が無くなりゃ燃えかすのヘリューム、それが無くなりゃ又別の物ってわけで、超高圧超高温だからたいていの物は燃してしまう。燃すと言っても、火を付けて燃すようなケチなもんじゃないよ。何兆発の水爆の何兆倍の更に何兆倍かを連続して爆発させているんだ。

そうして最後には、又、それの何兆倍かの大爆発をしてお仕舞い。何だか知ってる者いるな。そうだ、超新星爆発だな。カニ星雲なんてのは大昔に超新星爆発があった名残で、この爆発は世界のどこの国からも見え、昼でも輝く不思議な星の出現に、大凶事の前触れかと恐れられたらしい。

まあ、それに比べりゃ小さい星は燃料こそ少ないが、引力が小さいので強くは燃えない。大きい星は太く短くだが、小さい星は細く長くで、我々の太陽もこっちのグループに入ってるらしい。

でも、各々方、安心召されるなよ。このような星は、燃料が減ってくるとだんだん大きくなる。赤色巨星と言ってバカでかくなり、一番内側を回っている水星なんか飲み込んでしまう。次の火星はどうか知らないが、もうこうなると太陽は空いっぱいで、地球が飲み込まれなくったって、水という水は海の水迄全部蒸発して、地球上の生命は全滅だ。

だけどこれは何十億年も先の事だから、人間には関係ないが、昴(すばる)はこの地球よりも早く最期を迎えるらしいんだ。

あんなに狭っこい所に、ぐちゃぐちゃ固まってるんだから、どうせちっぽけな星だろうと思い、小さけりゃ寿命は長いと思ってたが、間違いで、ずっと早く死んでしまうらしい。

そこで、若くして死に絶え、青春の喜びも味わえない、哀れな昴(すばる)の星達に対する挽歌と言う説だがどうだろう。

 

 おお、気の毒な昴(すばる)の星達よ。お前達は生まれたばかりなのに、間もなく死んでしまう。哀れ悲しき昴(すばる)よ。冥福を祈る。アーメン (笑声)

 

 そんな事言ったら、何デエ、テメエ等人間共はたかだか何十年の寿命じゃねえか。俺達、昴(すばる)の星達はその何億倍も長生きするんだぞ。ナマこくな。なんて、張り倒されちゃうかも知れないな。

でも、なんて事ないさ。地球から昴(すばる)迄行くのに光でさえ四百年以上、往復なら八百年以上だ。みんなみたいに図々しいのが揃ってる中にだって、まさか八百年以上生きようなんて、超ウルトラ級に欲の皮つっぱってる奴いねえよなあ。(笑声)

人間はなぜ死ぬのでしょう。 千年も万年も生きたいわぁ! なんて言って武郎に抱きついた「不如帰(ほととぎす)」の中の浪子みたいだな。(笑声)

 

<脱線千一夜 第87話>


前へ戻る
メニュー
次へ進む