ポルシェとデゴイチと象

 

 大勢の卒業生の中にはいろんなのがいてナ、スピード狂でスポーツカー大好きって言う奴がいた。

そいつの話なんだが、ある時に、友達になった女の子を乗せてやったら、スポーツカーはポルシェに限りますね、とか、やっぱりポルシェは乗り心地がいいですねなんて、しきりにポルシェのことを誉めてる。

何だろ、こいつ頭おかしいんじゃねえか、人の車に乗せて貰ってるくせに。

断っとくけど、俺の車はポルシェじゃねえんだ。日本製の、それも中古なんだ。(笑声)なんて心の中で思って、腹立てていたら、どうもおかしい。

よくよく聞いたら、何の事ナイ、その女の子はこの車のような赤い色のオープンカーは、全部ポルシェだと思ってた。(笑声)

だから、お世辞にいろんな事を言ってたんだけど、奴さんにとっちゃイヤミに聞こえたってわけだな。

 

 キカイ物ってのは、こんなふうに門外漢にとっちゃ、ごっちゃになってる事が多い。

この間、ある観光地のパンフレットを見たら、下手な蒸気機関車の絵が描いてあって、「疾走 デゴイチ」と書いてある。

デゴイチというのはD51型蒸気機関車のことで、その絵の蒸気機関車には、ご丁寧にナンバープレートが描かれてあってC57と書かれてある。(笑声)

C57が何故D51か分からないが、これを描いた者は、蒸気機関車のことをデゴイチと言うと思ってたんだろう。

 

 こんなのは馬鹿げた間違いだが、いわゆる「鉄ちゃん」と呼ばれる鉄道マニアにとっては、とても細かいことが気になるらしい。

昭和の初めの北海道がテーマの映画なんかだと、あの○○線にはあの機関車は使われてなかっただとか、注意が殺到する。

JRに協力して貰って出来るたけ当時の車を使うのだが、車両番号が違う、あの頃はその車は九州にいた筈だなんて投書が来たりする。(笑声)

 

 これは動物の話だが、ターザン映画って言うのがあって、動物に育てられた青年ターザンが、密猟者の悪漢達を相手にして大活躍する話だけど、この時にターザンが乗って大暴れする象がある。

君達は象なんてみんな同じと思ってる向きもあるだろうが違うな。そうだな。アジア象とアフリカ象だ。

この二つはライオンと虎のように種類が違うんだから、形もいくらか違う。おや。すごく詳しい博物学者がいたな。その通りオデコと耳と牙だ。

アジア象のオデコは平たいが、アフリカ象のオデコは丸い。アジア象の耳は小さいが、アフリカ象の耳は大きい。牙は、アジア象は雄だけだが、アフリカ象は雄も雌もある。

性格は、と言うと、これが一番肝心なんだが、アジア象は大人しい。インドなんかじゃ、象をクレーンやトラックの代わりに使ってる。(笑声)

それに引き替え、アフリカ象は荒っぽい。別に人間を食うって訳じゃないんだけれどな。その証拠には、アフリカ象は動物園にはいない。いるのはインド象だけだ。

先生は一回だけアフリカ象を見たよ。でもそれは子供の象だ。大人に成っちゃうと、性質が荒っぽくって、もう飼うのは無理らしい。

 

 そんなわけで、アフリカをテーマにして映画を作ろうと言う時、インド象が使えないのには困った。

アフリカ象を何とか飼い慣らして使おうとしても駄目。そこで、何とか大人しいインド象を、アフリカ象の代わりに使えないか考えた。

つまり、インド象の平たいオデコに丸いふくらみをつけ、耳の方は回りに継ぎ足しを付けて大きくする。そうしてインド象をアフリカ象らしく見せかけた。

インド象は大人しいので、こんなことされても怒らない。みんなだったら、ウザッテーナ ヤメロ!って怒り出すだろうな。(笑声)

つまり、アフリカ象とDNAを共有してる奴が大勢いるんだろう。(笑声)

 

 まあ、とにかくこれが当たって、一般の動物園じゃ見られないアフリカ象に、ターザンが乗って大活躍してんの見て、お客は大喜びってわけだ。

でもこれが反対だったらどうだろう。

インド象のオデコが丸く、アフリカ象のオデコが平たい。インド象の耳が大きく、アフリカ象の耳が小さい。

大きい耳を小さく切る。丸いオデコを削って平らにするって事は出来るかな。(笑声)

 

<脱線千一夜 第88話>


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