姓名

 

 先生が教員に成り立ての頃、苗字は忘れたが名前は「二三子」と言う子がいた。「二三子」と書いて「フミコ」と読む。所が失礼ながらこの子の成績は2と3ばかり。(笑声)

親にこんな変な名前を付けられて可哀想になんて思ったが、その組に「一子」と言う子もいた。(笑声) じゃ、その子は1ばかりかと言ったら、けっこう頑張り屋で、「一子」じゃなくって、成績は「四四子」(ヨシコ)と言ったところだった。(笑声)

所で長い間先生やってると、いろんな名前に出会う。

始めの字は忘れたが、「○仁」(ナントカヒト)なんて奴が居た。まるで天皇陛下みたいだ。(笑声) こいつは「二三男」(フミオ)とでも名を付けた方がいいような奴で、しょっちゅう悪さしちゃあ小言くってたがなあ。つまり、名前負けって奴だ。

 

 それから同姓同名ってのもある。「大和」(ヤマト)って苗字はとても珍しいと思うが、みんなの中で「大和」って人を知ってる者いるか。いないな。先生も長い間生きてて、(笑声)「大和」って子を教えたのはこの時しかない。

所でその「大和」って子は二人いたが、二人とも女で、二人とも同じ日に入学して来て、二人とも名前が「秀子」(ヒデコ)、つまり「二人のロッテ」ならぬ「二人の大和秀子」、それぞれは別の小学校から来たんだけど、中学じゃ同姓同名同学年とややこしい。

○組の「大和」、×組の「大和」と言って区別していたが、学年が変わりクラスの編成替えをすると、○組の「大和」が△組の「大和」になり、×組の「大和」が□組の「大和」になるなんて面倒だった。

「大和」だなんてめったにいない苗字の子は、この二人しか知らないが、その二人が揃って「秀子」と言う名前で、その上に同じ学校で同学年なんてのは、珍しい偶然で、日本中探したって居ないんじゃないかな。

 

 これは苗字だけだが、Mと言う奴が二人いた。

クラスは違っていたから、○組のM、×組のMと言ったように区別していたけど、このうちの一人のMが、ちょいとばかり困ったことをやらかして警察に引っ張られた。

そういっちゃ何だけれど、いくら時効になったからって、口にするのは、はばかられるような事をナ。って言うと大体の見当はつくだろうってもんさ。(笑声)

学校じゃすぐに手をうって、その事が他に漏れないようにした。バレたらみっともなくって、引っ越しでもしなきゃならんがな。

でも、それからは、職員室では○組のM、×組のMと言う言い方じゃなくって、「マトモ」なM、「ヘンタイ」なMに変わったよ。(笑声)

 

<脱線千一夜 第97話>


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