○○子命 

 

 大国主命(オオクニヌシノミコト)、倭建命(ヤマトタケルノミコト)なんてのが出てくるのは日本の神話の中の神々の名前だが、きれいなコンクリートの壁なんかに大きく○○子命(ナントカノコノミコト)なんてあるのは、古事記にも日本書紀にも出てないようだ。(笑声)

インターネットで調べたが駄目だった。(笑声)

よく聞いたら、ありゃ、「命(ミコト)」じゃなくって「命(イノチ)」と読むらしい。(ナントカノコノミコト)じゃなくって(ナントカコチャンイノチ)だそうだ。

つまり神様じゃなくって、歌の文句じゃないが「命預けます」とか「命紅(いのちくれない)」の方らしい。

思いこんだら命がけだ。○○子チャンの命は自分の命と同じだ。酸素と水素が化合して水になるように、自分達の命も化合しちゃったんだ。(笑声) なんてもんだろうがな。

でかでかとそんなこと書かれて、○○子チャンの方は嬉しいのか迷惑なのか分からないが、誰からも相手にされないよりか、いい塩梅なんだろね。(笑声)

 

 所で、以前、地方のある駅のことなんだがね、その駅はJRの幹線のにも関わらず、乗降客があんまりいないんだろう。無人駅になっている。だから駅舎はあるが駅員はいない。

普通の駅前には、食堂や商店が軒を並べ、モータープールやバス停から交番もあるんだが、その駅は町から少しばかり離れてるせいか、何もない。

駅舎は造られて間もないらしく、割ときれいだった。都会じゃメチャメチャにいたずら書きされる所なのに、そんな事はなかった。

夏だったから、駅舎の中よりも外の方が涼しかったんで、木陰のベンチで列車待ちをしていたが、そこに、わりかしと真面目な感じの大学生らしい青年が、英語の本を読んで座っていた。そこでちょっと話しかけたって訳だ。

「やはり地方ってのは純朴でいいね、都会じゃこんな所がありゃ、さっそく、メチャメチャにいたずら書きされちゃうよ。暴走族の名前だとか、○○子命だとかって。この駅は造ってもう2年経つと言うが、綺麗なもんだね。汚い都会から地方に来ると、景色だけじゃなく、人の心も美しくって、心が洗われるようだね。」・・・なんて言ったら

「別に大した事、ありませんよ。この辺だって、ひどいもんですよ。この間もあの自動販売機、ぶちこわされたばっかりですよ。」・・・とのことだった。(笑声)

そういえば、駅舎の軒先にはタバコやジュースの自動販売機があった。

そうか。悪いことは都会からだんだんと地方に浸透しつつあるんだな、そうするとこの駅舎のきれいな壁も、いつまで持つ物やらと思った。

そういえば、何にもないと言った地方の無人駅だが、この自動販売機だけじゃない。何時間も列車待ちをしなけりゃならないんだから、トイレもある。いざの時にゃ、大問題だもんな。(笑声)

 

<脱線千一夜 第98話>


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