「回春」、「悔悛」そして「○○」
日本の法律てえのは権力者に対しちゃ大甘で、下に行くほど厳しくやられる。そもそも売春の取り締まりをするはずの警官が、売春ならぬ買春やったなんてけしからんと新聞やテレビで叩かれ、評論家なんかがもったいぶった事言ったりしてるが、おかしなもんだ。
買春やるのがいいとかってんじゃない。こんな事は、上の方にゃあ、大甘だ。
政治屋共の下っ端ならぬ一番上の総理大臣が、この買ナントカなんかをしでかしたときなんざ、警察もニュース屋達も知ってて知らんぷり、それが大々的に外国の新聞やテレビに「日本の総理大臣は助平だ」なんて出された。(笑声)
そうなると、それを見た日本人からは、なんで、日本のニュース屋共は政府に遠慮してんだ、なんて言われて仕方無しに発表したって事がある。一国の総理大臣がこのザマで、警察やニュース屋達もそれを見過ごしてんだから、外国から小馬鹿にされても仕方ないな。
と言っても、その後にアメリカの大統領もこんな事やって騒ぎになったな。そうすると元祖は日本だ。悲観することない、日本はヒトマネどころか、創造性に富んだ国なのかも知れない。(笑声)
なお、日本のニュース屋共は知っていても言わないのは昔からで、日米戦争中は「勝った」「勝った」の連続だった。本当は知っての通り「負けた」「負けた」の連続だった。(笑声)
日本軍の憲兵によって見張られてるんだから、本当の事を書いた記者はすぐに呼びつけられて、「テメエは赤カ!」と死ぬ程ぶん殴られ、すぐに徴兵され、99パーセント戦死するような第一線に放り込まれる。
敗戦後のアメリカ軍の占領中は、それまで以上に厳しい検閲があった。ハガキも封書も全部アメリカ軍が調べる。
ハガキはすぐに見られるからいいとして、封書の方は、封をした反対側の方を切って中身を出して読む。これは差し支えないとしたら、アメリカ軍の模様の入ってるセロテープで貼る。
新聞やラジオは、日本軍の指導者をメチャメチャにけなし、アメリカ軍サマサマの記事でないとOKして貰えない。
ある新聞が南京事件で「こんな事は考えられないが」と言う言葉を入れたら、即、何日間かの発行停止で、書いた記者は「クビ」と言う処分を食らった。尤も、殺されるよかましかもしれんがな。
所で、どうも神聖な教場を汚すようで申し訳ないがな。(笑声)「買春」ってのは何て読むんだ。うん、(カイシュン)か。「買」が(カイ)で訓読み、「春」が(シュン)で音読みというのか。
これ何読みってのか知ってるな。そう。前が訓で後が音なのは湯桶読みだな。この反対の前が音で後が訓なのは重箱読みってのも知ってるな。
テレビのアナウンサー達が「買春」(カイシュン)と言ってるのを聞いて、どうも気になった。そんな言葉はあるんかなって事だ。そこで、普段使ってる小さい方の国語辞典を見たら、思った通り出てない。
(カイシュン)って言うのは「回春」(病気が治って元気になること、老人が肉体的によみがえること)だとか、「悔悛」(自分が犯した罪を悪かったと悟って、真面目になること)なんて事しか出ていない。そこでいよいよ広辞苑の出番に相成る。
驚いたことには、広辞苑でも「買春」(カイシュン)なんてのは出てない。あるのは「回春」や「悔悛」なんて物ばかりだ。
そこで、「売買」の事を(バイバイ)と言うように「買」は(カイ)じゃなくって、これも(バイ)と読むのかと思って(バイシュン)と引いてみた。
そうしたら、なんと「売春」(バイシュン)ばかりじゃなくって「買春」(バイシュン)と言うのがあった。説明を読むと1970年代の中頃から、売春問題の時に、男性側の責任も追及する為に、使われだしたとある。
言葉は生き物だ。ほんの僅かの期間に「買春」(バイシュン)が一般的には「買春」(カイシュン)になってしまったのだから、広辞苑にもいずれ書かれることだろう。
そこで、ちょっと品のない問題かも知れないが「カイシュンした老人がカイシュンして捕まりカイシュンした」なんてのが入試に出るかも知れないぞ。(笑声)
<脱線千一夜 第100話>
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