再び 高橋尚子

 

 こないだ、テレビでやってたんだけどな。競走用の自動車の後にわざわざ大きい羽をつけてんだ。

そんな事すりゃ、空気の抵抗が大きくなって困ると思うんだが、なぜそんな事やったかと言うと、そこにわざと大きい空気の渦を作るんだ。

そうしてその渦の中に、競走用の自転車が入って走る。そうだ。何人か見てたな。

なぜ、そんな事やってんだ? そうだな。空気の抵抗を減らすんだな。

つまり、前を走って行く自動車の羽が空気をどかしてしまうから、自転車は空気の渦で後から押されるようにして走る。

どの位速いかというと、恐るべし、時速270キロ、新幹線みたいだ。普通の自転車じゃ、こんなにスピードは出る訳無い。

以前、自転車好きの面白い奴がいて、100キロ出したなんて自慢してたが、次の日には、ひっくり返って頭を打って、イスラム教信者みたいに頭に包帯を巻き付けてきたよ。(笑声)

 

 所で、この空気抵抗を減らすとスピードが出るという原理を使った自転車競争がある。

ドミフォン・レ−スと言って、大きなトラックで8コースでやるんだが、いくら何でも自動車じゃ無理だ。

オートバイが前を走って、空気の渦で自転車を引っ張っていく。こりゃ、2人の呼吸を合わせるのが難しいだろうね。

オートバイが速ければ、自転車との間に距離が出来て、空気の渦なんて物は消えちゃってるだろうし、オートバイがもたもたしてりゃ、自転車の方の力がいっぱいに出せないから、負けちゃう。

先生はこの競技の写真を見たことがあるが、まるでオートバイが紐を付けて自転車を引っ張っているように見える。

実際は紐なんかなくて、オートバイが空気の渦で自転車を引っ張ってるんだがな。

 

 これは自転車競技の中で、とても早いほうだが、とてものろい自転車競技もある。そうだ。自転車のおそ乗り競争って奴だ。(笑声)

だけど、こんなのは運動会のレクレーションゲームだが、本当の自転車競技でもそんなのがある。

これは2人でやるんだが、号砲がなっても2人とも走り出さない、相手の様子を窺ってる。

と言うことは、相手にさっき話したドミフォン・レ−スのオートバイの役をやらせようってわけなんだ。

つまり、先に行く自転車はまともに空気の抵抗を受けるが、その後に続く自転車は空気の抵抗を受けずに走れるから楽なんだ。

 

 雁が渡っていくときに、竿や鍵になる、つまり一列になって編隊飛行するのもこれだ。

リーダーの鳥が一番前を飛んでいくと、2番目の鳥はリーダーの後に着く。ここが一番空気抵抗が少なくて、楽に飛べる。

3番目の鳥は更にその後、と言う風にエネルギーを節約しながら、列をなして飛んでいく。

特に学校で先生に怒鳴られながら勉強した訳じゃない。(笑声) つまり天性というか本能というか、そんなもんだな。

 

 このようにして後の鳥や自転車は、前の物よりか楽に行けるけど、競争だったらこのままで行ったんじゃ駄目だ。

そこで最後に、今迄ためていたエネルギーを一気に出して外側から追い抜く。

トラックはすり鉢型で、外側が高いから、その高いところから降り、ゴールに飛び込むとき、地球の引力に手伝って貰おうという算段だ。(笑声)

でも、相手もそうはさせまいと思ってるから、この辺は虚々実々、知能戦になる訳だな。

 

 そこで、この間、マラソンで優勝した高橋尚子のことなんだが、先生は一部分を録画で見ただけなんだが、驚いたことに高橋尚子の周りに、ガッチリした男が何人も走っている。

何かと思ったら、ペースメーカーだとか左右のガードなんからしい。

オリンピックや世界選手権の時なんかには、あんなのいない。

何だろうと思ったら、このベルリンマラソンには、全コースの3分の2はあのようにしていいという規定があるそうなんだ。

こりゃ驚いた。じゃ、すぐ前を走るペースメーカーは、身長が2.5メートルもあるような大男を使ったら、そいつの作る空気の渦に吸い込まれて、楽に走れるんじゃないかななんて考えた。

 

 先生みたいに数学やってる人間には、どうもスポーツの世界はファジーで納得しかねる物が多い。

よく言うホームラン王なんてのもそうだ。ホームランが出やすい球場と、ホームランが出にくい球場とがある。

ホームランと外野フライとは紙一重、バカと天才みたいなもんだ。(笑声)

もし球場がちょっと広けりゃホームランは外野フライになっちゃうし、逆にちょっと狭けりゃ外野フライはホームランになっちゃう。

テニスコート位の球場だったら、(笑声)ジャンジャンとホームランが出るだろうな。

先生が子供の時に、学校の屋上でよくゴムまりで野球をしたもんだが、ちょっと強く打つと手すりからはみ出して、下に落ちちゃう。

これをホームランにしたら、打つ球打つ球みんなホームランだ。だからどういう風にしたかというと、下に落としたらチェンジ。(笑声)

その上に、打った奴が責任者で、下まで階段降りて、探して来なけりゃならない。

チェンジだから同じチームの者にいやな顔されるし、屋上から球を落とさないように、みんな、ソーッと打ってたよ。(笑声)

 

<脱線千一夜 第106話>


前へ戻る
メニュー
次へ進む