上手に万引きしてこい

 

 こないだ新聞の投書欄にあった話なんだけどな。大学生の女の人の話だ。

小学校の頃に友達と廊下でふざけていて、アゴに大怪我をしてしまった。そうしたら、家に担任の先生と教頭先生が謝りに来た。

突然のことなんで、お母さんはアタフタしてたが、一体全体、何で先生が謝りに来なきゃならないのか分からなかった。

先生の言うこと聞かないで、廊下でふざけていたんだから、怪我をしたって、つまり自業自得なのに。

で、「監督不行届き」なんて怒る親が大勢いるなんて知ったのは、成長してから。とにかくこんな事は納得がいかない。

言うこと聞かない何十人の子供を絶えず監督することなんか出来っこない。子供同志でふざけっこやったり、暴れ回ったりすりゃ、怪我するくらい当たり前だ。

「ルールを守る」って事を教えるのは、学校じゃなくって家庭だろうと言う趣旨だった。確かに「監督不行届き」と言って先生が親に怒鳴り込みに行きたい奴も、結構いるな。(笑声)

 

 実はこの話を読んで思い出した事があるんだがな。

先生の知り合いに化粧品屋さんの店長をしてる人がいる。その人から聞いた話なんだ。

所で、店長と言ってもそんなに大げさなものじゃない。デパートの名店街に化粧品屋さんが何軒も入ってる。そこの店長さん。

みんなはデパートの名店街って言うと、すぐに食堂を考えるな。如何に食い意地が張ってるかって言う証拠だ。(笑声)

そこで、この化粧品屋さんの名店街での話。SとかKとかFとか、何軒もの化粧品屋さんが、一つのフロアに入ってる。

この店長さんはその一つの売り場で、4〜5人の店員達のチーフと言うわけだ。

 

 ある日のこと、その売り場に40位の女の人がやって来た。

先生は男だから分からんけど、化粧品屋さんと言うのはお客さんに座って貰って、お客さんの肌にはこういったクリームが合いますとか言って、そこできれいにお化粧してあげる。

お客が鏡を見て、ウワー、これが私なのって、自分が綺麗になったのにたまげる。(笑声) と言うわけで、そのお客にベテランの店員がついて綺麗にお化粧をする。

そうして、これやこれやこの品物を使うといいですと、色々と説明をした。

そこでどういった品物を買うか決めてから、そのお客は、じゃあ、お金を計算して、品物を包んで置いて下さい、その間にちょっとトイレに行ってすぐに戻ってきますからと言って。

おんや。ずいぶん早いな。うん、帰って来ないか。トイレに行きっぱなしか。(笑声)

その通り、十分たっても帰って来ない。二十分たっても帰って来ない。トイレでひっくり返ってるんじゃないかと言うことになった。(笑声)

 

 と、それ迄、何回も不審そうな目でこのお客を見ていた、隣のお店の人が声を掛けてきた。

話を聞くと、大分以前に、その店でもお化粧が終わってから、トイレに行くって言って逃げてしまったお客があったけれど、あの女に違いない、確かにあのフテブテしいツラは見間違えはない。(笑声)

そうすると常習犯だと言うことになるが、それにしてもすぐ隣の店にやってくるなんて、図々しいことおびただしいやナ。

 

 そこで初めの話に戻るが、子供が万引で捕まったら、何でお前は人様の物に手をつけるようなことをするんだ、家じゃそんな子に育てた覚えがないって叱りつけるのが普通だが、この女の家じゃ違うだろうな。

なんてお前は間抜けなことやるんだ。お母さんなんか、万引きやっても一回も捕まったことなんか無い。(笑声)

これから、絶対に見つからないように、上手に万引きしてこいナンチャッテナ。(笑声)

 

<脱線千一夜 第114話>


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