馬 退きつ

 

 こないだスフィンクスの話をしたときに「うまのきつ・・・」なんて、スフィンクスには全然関係のない事言ったけど、ありゃ、大昔に兼好法師が書いた徒然草の中の話だ。

答えを調べた者いるか。そうだな。「雁」だな。

でも、それ以外に考え方によって「柿」とか「彼の日記」とか「枯れ木」なんてのもある。

徒然草の中の話では、あるイバリヤがいて、俺の知らないことはない、俺が答えられなかったら、御馳走してやってもいいと言っていた。(笑声)

そこで、別の人がじゃあ昔から聞いてはいたが意味の分からないことがあるから教えてくれと言った。それが「うまのきつ りょうきつにのおか なかくぼれいり ぐれんどう」だ。

そのイバリヤはこれを聞いて、そんな出鱈目な文句はお話にならない、返事する値打ちすらないと言ったが、じゃあ、これがなぜ出鱈目な文句か証明してくれと突っ込まれた。(笑声)

どうしょうもなく、罰として御馳走させられたという話だが、兼好もこれが何の事か分からず、話として紹介してあるだけ。

 

 所でこの謎は難しいから、簡単な物からやってみよう。

「狸の宝箱」ってのがある。そうだな。「カラバコ」だ。(笑声) 説明は? そうだな。「宝箱」の「タ」抜きだから「カラバコ」になる。

同じような物に「片目の狸」ってのがある。今のが分かってりゃすぐに分かる。そうだ。「カメ」だな。「カタメ」から「タ」抜きすりゃ「カメ」になる。

少し難しくすると「明後日は愛宕参り」(アサッテハアタゴマイリ)なんてのがあるけど分かるかな。おや、手が上がったな。何だ? 多分「卵」じゃないかって? 御正答だよ。

どうやってやったの?「アタゴ」から「ア去って」だから「ア」を抜いて「タゴ」、それに「マ入り」だから「マ」を真ん中に入れて、「タマゴ」になる。正解だ。(拍手)

 

 「椿葉落ちて露となる」なんて、情緒に満ちた謎もある。これは説明してある本が沢山あるから、知ってる者が多いだろう。そうだな。「雪」だ。

「ツバキ」から「葉落ちて」だから「バ」が落ちて「ツキ」。

そうして「露となる」ってのは、「ツ」→「ユ」となると言うんだから、答えは「雪」。

 

 ではいよいよ「うまのきつ・・・」の出番だ。

出番と言うからには舞台がある。その舞台を使って考えていくんだ。

まず「うま」と言う言葉がある。そこでこの舞台の上に「馬」が登場する。

だけど次の言葉は「のきつ」、つまり「退きつ」だ。

つまり舞台に一度馬が登場したが、すぐに退場してしまったと言うんだ。

こんな訳で、この「うまのきつ」と言う言葉は、つまりダマシ。(笑声)

謎を複雑にする為に関係のない、余計な言葉を入れてるんだ。丁度これはDNAの二重螺旋と遺伝子とようだな。

DNAの二重螺旋の中に遺伝とは全然関係のない物が沢山入っている。進化の過程で捨てられてしまった物だらうが、暗号なんかでは、通信の能率から、短い時間に多くの情報を送るためこんな事はない。

 

 さてその次に登場するのは「りようきつにのおか」の九文字だ。これをどうするか。

一つおきに読むと「りうつのか」二つおきに読むと「りきの」、逆順に読むと「かおのにつきうより」、「顔の日記鵜より」なんて変な読み方も出来るが、後が続かない。

そこで手がかりとして、次を読むと「なかくぼれいり」とある。「なかくぼれいり」とは何だろう。

「なか」は「中」、「くぼれいり」は「窪れ入り」つまり「なかくぼれいり」は「中窪れ入り」で真ん中が「ドカン」と落ちて消えてしまう事だろう。

つまり、箱根や阿蘇のような複式火山だ。

舞台では「スッポン」と言われる小さいリフトがあって、七色のライトに照らされて、花形歌手がそこから出てくるのは、テレビなんかでよく見てるな。

でも、お客に喜んで貰うためには、命がけで危険なことやってるんだ。随分と前だが、踊り子の一人が機械に挟まって、胴体が切れてしまった事がある。

 

 「りようきつにのおか」の「中」を「窪れ入り」、つまり舞台の下に落としてしまう、でも、人間じゃないから、危なくも何ともない。

「ようきつにのお」は消してしまって、舞台に残るのは両端の「り」と「か」だけだ。

そうして最後に行く。「ぐれんどう」だ。これは、ひっくり返せの意味だ。

「りか」をひっくり返して、答えは「かり」つまり「雁」になると言う、日本情緒の豊かな謎々だ。

でも、同じ「かり」でも「狩り」となるといささか問題だな。「オヤジ狩り」なんて言っちゃってな。(笑声)

 

<脱線千一夜 第125話>


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