穢多(エタ)非人(ヒニン)とは箆棒(ベラボウ)な

 

 「そんな箆棒(ベラボウ)な事があってたまるもんけえ」なんて使い方をする「篦棒」、つまり「いくら何でも、無茶苦茶でゴザリマスガナ」(笑声)と言った言葉は、小塚ッ原や鈴ヶ森などの刑場で、死刑囚の屍体を扱うときに使う棒だなんて事を、先生は子供の頃にお祖父さんから聞いた事がある。

つまりは屍体をあつかうピンセットだ。(笑声)

で、この篦棒はいいとしても、その篦棒を使って屍体を処理する人達、つまり刑場幕吏の使役人は非人(ヒニン)と言われ、酷い差別待遇を受けていた。・・と言うことだ。

先生の考えじゃ、非人なんて言われてても、彼等は徳川幕府直轄の役人の端くれだ。だから、江戸時代に何回もあった大飢饉の時に、一般の人間じゃ、自分の子供を殺して食うなんて事があったけれど、幕府のご意向に縋って生きられたと思う。

何? いざとなったら、死刑囚の肉を食えばいい? (笑声) 何だか箆棒な話に落ちてきたな。

 

 人間の屍体を処理する人達が非人と言われていたらなら、動物の屍体を処理する人達は穢多(エタ)と言われていた。

これも差別待遇を受けていて、前に話した藤村の「破戒」や、住井すゑの「橋のない川」で有名だな。

あいつは頭がおかしい、クルクルパーだなんてのは、指で頭の所にクルクルッと輪を書いて、ジャンケンのパーの手をする。(笑声)

そのように、あいつは穢多だって事を言うには、四本指を出す。

何故だ? そうだな。動物は四つ足で、あいつらは動物の屍体で食ってると、軽蔑してるわけだな。

 

 でも、この穢多と言われた人達は大したもので、関東地方の彼等の元締めは、数々の産業技術や文化、治安を担い、大名とみまがうばかりの権勢を 誇った浅草弾左衛門で、名字帯刀を許されており、つまり農工商を飛び越して士分の中でも上の方だったというから凄い。

つまり、かつては農業や運送に使われた牛馬その他の死んだ動物の皮を剥いで、なめして工作しやすいようにするのは、彼等の独占事業だったのだろう。

だから、この弾左衛門は、自分のことを穢多頭なんて言わない。長吏と言っていたそうだ。長吏というのは、お寺や神社のために、汚い物を清める役人と言ったことだ。

勿論、始めは全然差別されない当たり前の仕事で、そうして長吏と言って、他の者と変わらないつもりでいても、アイツラは動物の死骸で食ってやがると、長い間に嫌われる風潮が起きたんだろうな。

所が、明治時代以来、産業が発達してくると、動物の皮を使って商売するのは、一般の人間がどんどん入り込んできて、彼等の独占事業じゃなくなる。

そうすると、あまり好かれない仕事しか残っていない。硫黄を燃やして亜硫酸ガス、つまり二酸化硫黄を使って、藁などの漂白をする仕事をやったりして、臭い臭いと嫌われたそうだ。

 

 今じゃ考えられないけど、その当時、彼等は当たり前の人間として認められて無かったんだ。

「橋のない川」に出てくるが、地主に土地を借りに行くと、中々貸してくれない。そうかと思うと、年貢を他より高く吹っかけられる。

文句言うと「あんた達、穢多だろう」って、そんな事は当たり前のように言われる。

つまり、穢多と言われた人達に土地を貸すとその回りの者がいやがって、借り手が減ってしまうって事らしいがな。今でも、アパートに「外国人お断り」って出てるのと同じ事らしい。

又、天皇が亡くなった時、夜中に招集がかかり、小学校の生徒が校庭に集められる。

その時に、主人公が憧れていた綺麗なトテモ美人の女の子が隣に並ぶ。と、・・・・おづおづっと可愛い手が伸びて、そうして、・・・・主人公の男の子の手を探る。誰だ。よだれ垂らしてる奴は。(笑声)

この話、読んだ者いるだろう。

そうだな、その綺麗な女の子は、穢多と言われてる人達は、夜中になると手足が氷のように冷たくなるって聞いてたんだ。この話の主人公は彼等の子だから、本当に冷たいかどうか、触ってみたって訳だ。

彼女は科学者でキューリー夫人二世みたいな所があったんだろう。(笑声) でも、主人公にとんだ糠喜びさせてしまったのは、罪なことだがな。

え? とんだ糠喜びで、今度はデート申し込んで、肘鉄食らったかって? (笑声) 後は図書館に本があるから読みな。テストにゃ関係ねえけどな。(笑声)

 

<脱線千一夜 第126話>


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