日本海、人さらい、再会

 

 (1)日本海、(2)人さらい、(3)再会、と三つの言葉から何を連想するかって言えば、勿論のこと、今回の北朝鮮による拉致事件だな。

所がコンピューターの検索エンジン、ヤフーとかインフォシークとかゴーグルとかあるが、あれにこの3つの言葉を入れて検索すると全然違うことも出てくる。

見当が付くかな。え? 時代はって? いいとこ突いてきたな。多分、室町時代だろう。そうだ。山椒大夫だ。正解。(拍手)

言われてみるとそうだなと思うだろう。安寿と厨子王と言う名で有名で、絵本なんかで読んだ者もいるだろう。

 

 説教節という、いわば昔話だから、いろいろと変形がある。でも、大筋は同じで

(1)安寿と厨子王の父は東北地方の役人だったが、あらぬ嫌疑を掛けられて、京都に呼び出され、罪人として九州に島流しされる。

(2)安寿と厨子王と母は「父を尋ねて三千里」。東北地方から九州へと旅に出る。

(3)途中、日本海岸の直江津あたりで、人さらいに誘拐されて、母は佐渡、姉弟は丹後(京都府の北で日本海岸)の山椒大夫の所に売られる。

(4)姉弟はそこで奴隷のように働かされたが、ある夜に2人は脱走し、弟の厨子王は情け深い坊さんに助けられ、逃げおおす。(姉の安寿は、逃げきれず自殺すると言うのと、追っ手に捕まって、山椒大夫の屋敷で責め殺されるとの2説あり)

(5)厨子王は京都に行き、父の無実を訴え、幸いにそれが通って父は嫌疑が晴れて青天白日の身になったが、でもその時は、長い流人生活で、父は病み、亡くなってしまう。

(6)かつて役人だった父の職種を引き継いだ厨子王は、丹後の国主に任命される。

(7)今度は役人として任地に赴いた厨子王は、山椒大夫を死刑にし、人さらい一味をきつく処罰する。

(8)悪人共を吟味して、母が佐渡にいることを知った厨子王は、佐渡に急行し、農家の庭先で歌を口ずさみながら箒で雀を追っている盲人の老女を見つける。

♪あーんじゅ 恋しや ヨーヤレホ♪

♪ずーしおー 恋しや ヨーヤレホ♪(笑声)

笑っちゃいかんぞ、一番盛り上がりの時だ。

(9)と言ったわけで、二人は再会し、仏様の功徳で母の目も元通りになった。めでたしめでたし。(拍手)

 

 大体はこんな筋だったが、細かいとこじゃ、いろんな変化があるだろう。

所で、厨子王が国主になって丹後の国に行き、山椒大夫を捕まえて死刑にするところは、圧巻だ。

誰か知ってるかな。そうだ。その通り、竹ノコギリって奴だ。

前にも話したかも知れないが、死刑には、

(1)見てる者が目を覆うような残虐な殺し方と、

(2)いっぺんに殺しちゃうんじゃ勿体ないから、(笑声) じわりじわりと長い間、時間をかけて、うんと苦しませるというのとある。

これは(2)の方で、罪人を縛ってから、首から上だけ出して体を土に埋める。

そうして、そこに竹ノコギリを置いておく。そこを通る人が「この悪党め!」とか何とか言いながら、その竹ノコギリで首を挽く。

但し、一人一回だけ。何回も挽いちゃうと死んじゃう。これじゃ、勿体ない。(笑声)

竹ノコギリじゃなくって、金ノコギリでも早く首が挽けちゃう。(笑声)

殺っしちゃ勿体ないから竹ノコギリでゆっくり挽くってわけだ。

 

 さて、翻って時代を室町の世から現代に持ってくると、この、竹ノコギリで首を挽かれる奴は誰かと言うことになる。

現代の山椒大夫はミサイルと核兵器で武装してるって言うから、話は面倒だ。

でも、それにしても、「人さらい」の事を「拉致」なんて、体裁のいい書き方してんのは、ニュース屋ども、いささかおかしい。はっきりと「人さらい」とするべきだ。

それとも、「人さらい」って言葉は「めくら」「つんぼ」「いざり」「ちび」のように、使ってはいけない言葉なのかも知れないか。

そもそも「○○さらい」ってのは、あんまりいい印象の言葉じゃない。「どぶさらい」とか「く×さらい」みたいにナ。(笑声)

 

<脱線千一夜 第137話>


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