金日成はキム・イルソンか?

 

 文壇の登竜門として、芥川賞や直木賞があるのは知ってんな。ノーベル賞ほど有名じゃないけど。(笑声)

芥川賞は、「羅生門」だとか「杜子春」なんかを書いた芥川龍之介を記念したものだが、直木賞は誰だか知ってるか。そうだ。直木三十五だな。「南国太平記」なんて著書もある。

 

 ところでこの直木三十五、彼が文壇に登場したのは三十一歳の時だった。そこで直木三十一という名で出た。そして次の年は直木三十二、次は直木三十三(笑声)

三十四というのは「四」が「死」に通じるって言うんで避けた。今でもアパートや病院なんかじゃ4号室なんてのはないように、改名しないで直木三十三で通した。そうして三十五歳になって直木三十五と言う名にした。

次の年に直木三十六にして原稿を出したら、三十五歳の時に有名になっていたので、印刷屋が

「何だ、あの人は直木三十五じゃないか。自分の名前を書き間違えてやら。まだ三十五を出たばっかりなのに、もうモウロクしたんか」(笑声)

って言うわけで、勝手に直木三十五って印刷しゃった。(笑声) というわけで、仕方なくそれから直木三十五と言う名にしたそうだ。

新撰組隊士だったが近藤勇や土方歳三と意見が合わず、33歳で暗殺されてしまった伊東甲子太郎も鈴木大蔵、伊東大蔵、伊東摂津、宇田兵衛なんて、仕事を変える度に名前も変えたという。

もし80〜90迄生きたら「そんな名前にしてたときあったっけ」なんて事になりかねない。(笑声)

 

 でも、名前が多いのは因幡の白兎で有名な大国主命で、大物主神、葦原醜男、八千矛神、その他沢山の名前を持っている。

だから多名持ち(おおなもち)て言われたなんて馬鹿話があるが、本当は大己貴(おおなむち)で、少し違う。

 

 所でこの逆バージョンてのもある。

古事記で倭建命、日本書紀で日本武尊とあるヤマトタケルは、日本国中走り回って大和朝廷の為に大活躍をしたと言われるが、これは、何人もの英雄の武勇伝がごちゃ混ぜになって、一人の偉大な勇者の像を形作ったと言われている。

 

 このようなのは、古事記や日本書紀なんて昔じゃなく、ついこの間にもあったらしい。

日本の占領下の朝鮮で、丁度、ドイツ占領下のフランスのレジスタンスのように、神出鬼没してテロをやって、日本軍を悩ましたキム・イルソンという男がいたが、これもそうらしい。

このキム・イルソンについちゃ面白い話が残っている。彼は「縮地の術」というのを使うことが出来たと言われるんだ。

この「縮地の術」ってのは何かというと、読んで字の如し。地、つまり道の長さを縮める事が出来るってんだ。100キロの山道を1キロに縮めて、10分で駆け抜けてしまう。(笑声) 今の言葉で言やあワープって奴だな。

勿論、何人ものテロリストがキム・イルソンを名乗っていたのだろう。日本軍に取っちゃ不倶戴天の敵、朝鮮人に取っちゃ独立の英雄だったが、そのキム・イルソン達の主な4人については大体分かってるらしい。でも、みんな戦死しちゃっているらしいがな。

 

 さて、日本が戦争に負けて、朝鮮が独立する時、ドイツが東西に分けられたように、朝鮮は南北に分けられた。

南はアメリカ軍が占領したが、北はソ連軍が占領し、ソ連はここに都合のいい政府を作ることにした。

まず、親分は抗日の英雄として、名前が通ってるキム・イルソンと言うことにした。人間なんか後で決めりゃ良い。名前が先だってわけだ。(笑声)

所がテロリストのキム・イルソンは金一成とか金日星とか、読みは同じでも、漢字で書くといろいろと違う。そこで「金日成」を北朝鮮の政府の主席にすると発表した。

次に誰をこの「金日成」にするか考えたら、菌精虫という奴が見つかった。いや変換違いだ。金聖柱だ。菌精虫じゃなかった。(笑声)

この金聖柱って男は山賊みたいな奴で、かんじんの朝鮮独立軍と仲間割れして同志を大勢殺したりして、一度は死刑の宣告までされかかったらしいが、どこをどう言い逃れしたか生き延び、ソ連軍に取り入ったらしい。

都合のいいことに大勢のキム・イルソンのうちの一人で、死んでしまった「金成柱」と名前が似てるし、ソ連サマサマでよく言うこと聞きそうだから、こいつを金日成にしようと、北朝鮮を占領したソ連軍の親玉のなんとか少将だか大将だかが決めたらしい。

 

 ただ、金聖柱はまだ33才の若造だったので、かつての大勢のキム・イルソン達とは年が違っておかしい。

でもこの辺りが民主主義国家とは考えが違って、スターリンやベリヤが威張っていたソ連のような独裁国家じゃ、文句言う奴は叩っ殺っしゃえばいいって方針だ。蝿叩き方式だ。(笑声)

だから、あいつはキム・イルソンじゃない、偽物だなんて言った者はソ連軍が後ろ盾をしてるニセ金日成の手で、みんな殺されてしまったらしい。

 

 と言うオハナシがあるんだが、どこからどこまで本当で、どこからどこまで嘘か、先生は知らない。(笑声)

だけど、こんな事言ったらそくざに死刑にされちゃう国があることは、ホントらしいな。オオコワコワ。(笑声)

 

<脱線千一夜 第143話>


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