科学者ガリレオと哲学者ブルーノー
「でも地球は廻っている」と言う有名なセリフがある。そうだな。ガリレオだな。
それ迄地球は宇宙の中心だと言うことになっていたが、沢山の天体観測を調べた結果、太陽の周りを地球が回ってるらしいと言うことに気が付き、コペルニクスという男がそれを発表した。つまりそれ迄の天動説に対して地動説だ。
先生はこのコペルニクスの本は読んだ事ないんで分からないが、教会やその頃の風潮に遠慮して、その本はいかにも天動説が書いてあるように見せかけてあるということだ。
その本は「天体の回転につて」と言う本だが、大切な所は「天体位置の簡易計算法」で、つまり太陽が止まっていると考えれば、色々な惑星の位置を計算し易いと言うのだそうだ。
ここがコペルニクスの頭のいいところだな。「本当は地球が止まっているが、計算するには太陽が止まっているようにしたほうがいい」なんて実にうまい。普通はコペルニクスって言うとすぐに地動説って言うが、先生はそれよりも、うまく教会を騙した大天才だと思うよ。(笑声)
彼はこの本を書いて暫くしてから亡くなってしまったので、自分の本がもとで大騒ぎが起こるなんて、考えても見なかったんだろう。
所でこの本をよく読んだ学者達が、そうだそうだ太陽が止まっていると考えりゃ、すべて簡単に計算できるんだ。今迄、地球が中心で太陽がその周りを廻ってるなんて言ってたが、そりゃ大間違いのコンコンチキだ。(笑声)
あのキリスト教の坊主共め、知った風な顔してウソベエコイテヤガル。(笑声) と大声で言い出したから騒ぎになった。
そこでその地動説科学者の親分のガリレオ・ガリレイがとっ捕まって、宗教裁判に掛けられた。
「どうだ。地球が太陽の周りを廻っているのか、太陽が地球の周りを廻っているのかどっちだ。答えによっちゃあ、火焙りの刑だぞ」
って脅かされた。みんなだったらどうする。
「へーっ、恐れ入りました。地球が太陽の周りを廻っているなんて言ったのは、全く私の勘違いにてございます。確かに太陽が地球の周りを廻っておりますで。なにとぞ命だけはお助け下さいマセマセのおマセマセ」(笑声)
ナーンテ言ってへっ蹲(つくば)るだろうな。
ガリレオも
「どうもすみません。以後気を付けます。太陽の周りを地球が廻ってるなんて言いません」
なんて簡単に謝り勘弁して貰った。所が、許されて教会の階段を下りる時に
「バッカジャナカロカ! 地球が太陽の周りを廻ってる事くらい知らねえのか。キリスト教原理主義者の、バカ坊主共め!」(笑声)
って呟いたという話があるが、恐らく後世の創作だろう。例の「板垣死すとも自由は死せず!」みたいにな。
所でガリレオと同じように地動説を唱えていて、教会にとっ捕まったのに、もう一人ジョルダン・ブルーノーという男がいる。
こっちも宗教裁判に引きづり出されて、地動説を撤回するかしないか厳しく究明された。そうしたら
「何ウロタエテヤガルンダ。バカ坊主共め!(笑声) 今迄の天体観察の記録見りゃ一目瞭然じゃねえか。そんな事をぐずぐず言ってやがるテメエラ見てえなヤツバラは、キリスト教原理主義者って言ってな、あと何百年かしたら、イラクで非戦闘員の大量殺人をやらかすんだぞ!」(笑声)
とにかく最後まで強情張って、俺の方が正しいお前達が間違ってると言い続け、とうとう火焙りにされて殺されてしまった。
ではここでガリレオとブルーノーの生き方を考えてみよう。
何? ブルーノーはバカだって?(笑声)
イヤイヤ、バカ所じゃない。自分の信念に従って忠実に生きたのだから、その生きざまは敬服に値するよ。
じゃ、ガリレオはずるい奴かというとそうでもない。
彼にとっちゃ地動説は科学である。科学は人間を倖せにするための物であるから、地動説の前に人間がある。
とすると殺されちゃったら元も子もない。こんなバカらず屋の前じゃ何言っても無駄だから、ウソも方便で適当にごまかっしゃえばいいというのは、確かに科学的な判断で合理的である。
科学と哲学の違いというのは、大昔は同じ物から出発したろうが、科学はあくまで知識、哲学は生きざまを言うようになったのだろう。
ガリレオは科学者だから、地動説も彼の多くの知識の内の一つであり、それを無知蒙昧な人間達が非難をしても、彼等を憐れみこそすれ、論戦しようとはしなかった。
所がブルーノーは哲学者であった。哲学は生きざまであって信念の問題。
だからブルーノーにとって地動説は、単なる知識以上の問題である。
これを通過しなければ人間文明の進歩はない。人類発展の先兵としての自覚があったのだ。
だから日本で言やあ明治維新の頃の志士みたいなもんで、生命を抛(なげう)って志に殉じたって訳だ。日米戦の時のカミカゼ特攻隊だな。
さて、みんなはさっきの態度からすりゃ、特攻隊にゃ望みなし。又、理科の成績からすりゃ科学者にもほど遠いってもんだな。
ダラケ病原理主義者ってとこか。(笑声)
<脱線千一夜 第152話>
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