フォークボールと空気男

 

 「コワモテ」つまり「無理が通れば道理引っ込む」なんて物や「弱い者虐め」とか言う物は、動物や、あまりいいとは言えない人間共の事かって思ってたら、どうしてどうして、空気だって言うんだから驚いた。

空気が弱い者虐めをするなんて一体何だろうかと思うだろうが、野球の話だ。投手は直球や色々な変化球を投げ、打手はそれを捕まえて観客席にも届く大アーチを打とうとお互いに駆け引きするが、この変化球の中でフォークボールって奴がある。

普通、変化球って奴はくるくると回りながら飛んでいくボールだ。廻ってるから気圧が片側が大きく反対側が小さくなって、曲がって飛んで行くんだが、フォークボールって奴は全然廻ってないそうだ。

全然廻らなけりゃ素直なコースで綺麗な放物線になるかと思うが、これが大違い。みんなも知ってる通り、バッターの前でストンと落ちる。

一体どんな訳なのかと思ったら、抵抗崩壊って奴に関係があるそうだ。

 

 つまり、ピッチャーが振りかぶってビューーンと投げる。凄いスピードだ。

その時に空気はどうかというと、これがつまりヨワムシで、無理が通れば道理引っ込むって奴だ。こんなおっかねえボールにぶつかるのは御免こうむるって訳で、みんな逃げちゃう。(笑声)

だからあんまり空気抵抗は受けずに、そのまま飛んで行く。

 

 所がピッチャーマウンドからバッター迄はそんなに近くない。だからどうしてもスピードは落ちる。

「みんな逃げちゃうんか。弱虫共め。空気抵抗の恐ろしさを見せてやる」

なんてぶつかってくる近藤勇か土方歳三みたいな変わり者もいるわけだ。(笑声)

そうすりゃどうしてもボールのスピードは落ちてくる。

ある程度まで落ちると「この位ならおっかなくねえ。みんなでやっつけちゃえ!」ってわーっと空気が押し寄せる。(笑声)

 

 つまり弱い者虐めで、それ迄速かったボールが、急に遅くなり下に落ちていく。これがフォークボールだそうだ。空気って奴はテレビの「タケチャンマン」みたいなもんだな。(笑声)

「タケチャンマン」の歌に有名な所がある。そうだ。「強きを助け弱きを挫く」って奴で(笑声) つまりは強い者にはヘエコラして、相手が弱いと見ると大勢で虐め抜くって奴だ。

こういった奴は、つまり言うなら空気男って言うんだな。(笑声)

 

 確かに空気男に違いないわ。時間中は居るか居ないかサッパリ分からない。(笑声)

 

<脱線千一夜 第153話>


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