永久機関

 

 昔、と言っても明治大正の頃、一般の家庭は中々現金収入に乏しい。今のように型が古くなったから買い直そうなんて訳にゃ行かない。だから壊れた物も上手に修理して使っていた。

先生の家の近くに住んでいたある人は、とても器用で有名だったらしい。古いものでも修理して新品以上にしてしまう。先生のお父さんの話によると、やはり近所にいたこれも器用な人と二人で、何時までも水を吹き続ける噴水が出来るかどうか考えたそうだ。

でも、いくら器用でもこりゃ無理ってもんだ。みんなもやがて習うだろうが、熱力学第一法則からして、このような永久機関は成り立たないんだよな。

 

 科学、特に電気に関心のある子供達は、必ず一回は考えることがあるという物がある。それは何かというとモーターで発電機を廻すって事だ。

そうしたら次に、その発電機で起きた電気でモーターを廻す。次にそのモーターの力で発電機を廻す。次にその発電機で起きた電気でモーターを廻す。次にそのモーターの力で発電機を廻す。次にその発電機で起きた電気でモーターを廻す。次にそのモーターの力で発電機を廻す。(笑声)

 

 何時まで行ってもきりがない。つまり永遠に回り続けるって事になる。

だからこの大規模な物を作れば、電気はいくらでも出来るし、工場では電力会社から電気を買わなくて済むなんて話があるが、何故これは間違ってるんだろう。

え? 電圧が下がる。うん。成る程な。

でも下がったっていい道具がある。トランス、つまり変圧器だ。下がったらそれで電圧を上げてやりゃいい。

え? 回転数? だんだんのろくなっていって、止まっちゃいそうな気がするってのか。

ご心配は無用だ。歯車を使って回転数を上げてやりゃいい。

 

 こうなるとどう考えたらいいか難しいような気がするが、「モーター」→「発電機」→「モーター」→「発電機」→「モーター」→「発電機」と循環する時に、どんどんとエネルギーが減ってしまうんだ。

例えば電気機関車は石炭を燃して電気に替え、その電気で動くのだが、途中に色々な損失があり、石炭の持っている化学エネルギーの20パーセント強しか運動エネルギーに替えられないと言う。

シュッシュッポッポの蒸気機関車になると酷いもんで、僅か5パーセント位らしい。あとの95パーセントはつまり損失分で、周りに熱や音としてばらまいていくんだ。

まことに勿体ない話で、つまり蒸気機関車1台分の石炭で、電気機関車を5台も動かせるって訳だ。

こんな事を知ると、トランスとか歯車なんて考えが、チャチな物だと分かるだろう。

 

 つまり100ワットの電力を使ってモーターを廻し、その力で発電機を回転させた時には、途中に損失分があり、10ワットくらいしか電力が採れない。だからすぐに止まってしまう。

トランスも歯車も駄目だ。ヘナヘナ男に自転車トップギヤで坂道を登れってのと同じだな。

 

 もっと分かりやすく言えば、歩いて海を渡る方法って奴がある。歩いて海を渡るって方法を知ってる者いるか。

そうだな。つまりまず右足を出す。そうしたら右足が沈まない内に左足を出す。左足が沈まない内に右足を出す。右足が沈まない内に左足を出す。(笑声)

これ知ってた者何人くらい居るか。結構いるな。じゃ、海で実際にやって成功した者いるか。(笑声)

いないか。努力が足りないな。(笑声)

 

 ま、このような永久機関というのは不老長寿の霊薬や錬金術と同じで、昔から詐欺師のネタにされていたらしい。

昔、確かロシヤの皇帝が、これに引っ掛かって、大金を巻き上げられたって話があったような気がする。

何時までも何時までも回転し続ける不思議な機械で、これを大がかりに作れば、永久に力が得られるって騙された。

しめた。これで大儲けできる。その金で大きな軍隊を作って攻め込めばロシヤだけじゃなく全ヨーロッパは俺のもんだなんて、つまり「捕らぬタヌキの皮算用」って奴かな。(笑声)

何のこたない、机の下の見えない所に助手が隠れていて、機械を廻してたんだ。タヌキじゃなくって人間がナ。(笑声)

 

<脱線千一夜 第154話>


前へ戻る
メニュー
次へ進む