主体(チュチェ)思想原理主義

 

 源義経公のしゃれこうべと言うバカバカしくも下らない、そうして一面のどかで間の抜けた、素っ頓狂な話がある。(笑声)

知ってる? そうだな。なんだか小さくて当てにならないってやつだ。

つまり、ある人が源義経公のしゃれこうべを秘蔵してると言うので、拝見させて頂くと、頭蓋骨が桐の箱の中に大切に保管されていたが、どうも小さい。

これじゃ子供の頭蓋骨だ。失礼ながら、これは間違いじゃないかと問いただしたら

「されば、これなるしゃれこうべは、義経公が幼少のみぎり、牛若丸と申された頃の物にてござりまする」(笑声)

 

 これと同じような話を、この間、本で読んだ。

共産主義のバイブルと言うべき、有名な本がある。何て言うんだ? そうだな。

マルクス、エンゲルスの「資本論」て奴で、キリスト教なら今言った「聖書」、イスラム教なら「コーラン」に当たり、この「資本論」は今は世界中の各国語に訳されて、出版されている。

尤も、共産党の本家本元のソ連が崩壊してから、ガタンと売り上げが減ったとか聞いたな。

でも、とにかく、かつての共産主義国の学生達はこれで政治、経済等を勉強したんだ。

 

 そんな訳で北朝鮮の萬寿台の朝鮮革命博物館にこの本がある。

ここが問題。本なら図書館にあるんだが、こいつは博物館のガラスのケースの中に入れられて、れいれいしく飾ってあるんだ。

なぜこの本が大切にされて、飾られているのだろうか。

え? そうだな。

北朝鮮の国父というべき金日成が、中学生の時にこの本で勉強したと書いてあったそうだ。

これを見て来たのは韓国人のOさんだが、彼の話によれば、金日成が中学生の頃は「資本論」の朝鮮語訳は、まだ出来てなかったそうだ。

つまり、天皇制で言うなりゃ、今の天皇の曾祖父さんの明治天皇が子供の時に読んだって言う「ドラエもん」を、有り難がって飾っとくようなもんだ。(笑声)

でも「ドラエもん」だったら話の筋にタイムマシンがあるから、現在過去未来と本が飛び回るかも知れない。(笑声)

O氏はこんなバカな話はないって思ったそうだが、黙ってた。

金日成を神様のように信じてる連中の中で

「ナンデー! こんなもん。牛若丸のガイコツとおんなじで、ウソッパチジャーネーカ!」(笑声)

なんて言やあ、すぐ収容所行きで銃殺だろうな。

何にも言わないで感心してるふリしてたから、Oさんは無事に帰ってこられた。(笑声)

 

 金日成が書いたと言われる主体(チュチェ)思想に凝り固まって、のぼせ上がって金親子を神様のように崇拝してる輩(やから)の中で、そんなこと言うわけにゃいかないな。

つまりキリスト教原理主義や、イスラム教原理主義みたいなもんで、主体(チュチェ)思想原理主義とでも言うんだろう。(笑声)

それからこの主体(チュチェ)思想って言うのは、もとはって言うと「資本論」の著者の一人のエンゲルスが書いた物らしく、それを金日成の独創のようにしてるのは盗作だとか、たしかこれもO氏の説だった。

 

 とにかく、資源がなく貧しい、それなのに、大金食いのハリネズミみたいな軍隊作ってる北朝鮮が、なぜ潰れないかって言うと、この間、初めて分かった。そりゃ映画やテレビなんだな。

まあ、臨戦体制の国だから当然かも知れないが。

日米戦中の日本もそうだった。あの頃はテレビは無くってラジオだったがな。

外国の放送を聞けるように、ラジオを作ったり改造したりすると、憲兵が来てとっ捕まり、さんざん殴られた上、暫くブタ箱入りだ。

映画と言えば「あの旗をうて」「軍神西住戦車長伝」「空の神兵」「海軍」等等、戦争物一色。でも今になって考えてみると、やはり、無理してチョロイような所もあった。

 

 所で、随分と前だが北朝鮮の「千里馬(チョンリマ)」って映画を見た事がある。これは実に上手く出来ていた。

あれ見て一時期、朝鮮は南よりも北の方がいいんじゃないかなんて思った事がある。

実際は滅茶滅茶だったらしいが、実に上手く嘘をつく。

北朝鮮の国民も、みんなこれに引っ掛かってるんだろう。つまりマインドコントロールってな奴だ。

 

 この、うかつなことにゃ騙されない、大天才の先生を引っ掛けたんだから、主体(チュチェ)思想原理主義者共は大した奴等だ。(笑声)

各々がた、上手い事言われて攫われないよう、お気をつけ召されよ。(笑声)

 

<脱線千一夜 第160話>


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