ケンカ国家スイス

 

 スイスの学校ってえのは、たまげたことに凄くイジメが酷(ひど)いらしい。

永久中立国家なんて言って、どこの国とも戦争しない平和国家であり、日米戦の時に散々酷い目に会わされた日本じゃ「東洋のスイスたれ!」なんて言葉が流行った。

でもそのスイスは、日本と同じく戦争放棄の憲法があったり、軍隊は持たないかって言うと、これが全く反対。

何と、昔の日本のように国民皆兵、北朝鮮みたいなハリネズミ国家だ。俺の領分に入って来やがった奴は容赦しねえぞって奴だ。

第二次大戦の時に、アメリカ、イギリスなんかの連合軍だろうと、ドイツ、イタリーと言った枢軸軍だろうとスイスの国境を越えて入ってきた飛行機があったら、すぐに戦闘機が飛んでいって追出しにかかる。

戦争してる方じゃスイス国境を避けて大回りしてたら、味方が負けちゃう。構うもんかと近道して国境侵犯すると、本気で機関銃撃ってくる。

テメエ、マジニヤルキカ! と大立ち回りになる。(笑声)

戦争が終わる迄に、スイス軍機も、他の国の飛行機も結構被害が出たらしい。

 

 そこまでやっても自分達の国を守ろうと言った気概、感心して良いのか、呆れて良いのか分からないが、これが日本と違う、つまり島国ならぬ山国の根性なんだろう。

それが学校で仲間外れを作り、イジメになる一因かも知れない。

 

 所である人が、今迄の勤務地と違ってスイス勤務を会社から命じられた。

単身赴任じゃない。家族も連れて行くわけだ。

スイスは日本と違って言葉はドイツ語、フランス語、イタリー語、現地方言のロマンシュ語とあるが、半分以上がドイツ語圏、だから一応ドイツ語の所として話すが、お父さんはドイツ語を話せても、子供は話せない。

だから、学校に行っても全然分からない。でも、子供は友達と一緒に生活してる内にすぐに覚える。

以前の学校に来た外人の子は誰でも一年位経つとみんな日本語ペラペラになり「ナニイッテヤガンデーバッキャヤローメー」なんて日本語でケンカやってた。(笑声)

 

 まあその学校は酷いイジメはなく、外人だからと言って差別されるような事は無かったが、事、スイスとなるとその保証はない。

そこでお父さんはどうしたかというと、その小学生の子に徹底してケンカのやり方を教えた。(笑声)

相手の目をよく見ること、殴り方、蹴とばし方、急所をどう狙うか。(笑声)

 

 何ヶ月かの特訓の後、一家はスイスに行った。

その子が学校に行くと早速イジメが始まった。言葉が分からないことからまずシカト。(笑声)

シカトって言えば「無視するイジメ」の事だが何故シカトって言うか知ってるか? 知らないか。

ありゃ花札から出た言葉だそうだ。花札は一年十二ヶ月の花だが、何月が何の花か知ってるか。それも知らないか。つまりな。

1月〜松 2月〜梅 3月〜桜 4月〜藤 5月〜菖蒲(あやめ) 6月〜牡丹(ぼたん) 7月〜萩 8月〜尾花(おばな・ススキの事) 9月〜菊 10月〜楓(かえで) 11月〜柳 12月〜桐

実際の季節よりもいくらか早いようだが、これは太陰暦、つまり旧暦と今使ってる太陽暦の違いで、1月以上ずれることがある。

 

 所でこの中の楓の10点札には何の絵が描いてあるか知ってんな。

そうだ。鹿だな。萩の猪、楓の鹿、牡丹の蝶と3枚が猪鹿蝶と役物になってることも知ってる者、大勢いるだろう。

この鹿が問題。さてこの鹿はどこを向いてるか。

え? 右の方。上向いたり正面向いたり、反対向いてお尻をこっちに向けてる鹿なんかいないな。(笑声)

つまり鹿の十点札はそっぽを向いてる。だから無視することを鹿十でシカトだ。(笑声)

あんまりあてにはならないがな。(笑声)

 

 さてこのスイスの学校じゃシカトだけじゃ済まないで、早速に実力行使に出て来た。

その日本から転校して来た子が、校庭のベンチに座ってると、後に来た奴が急に手を掴んで動けないようにした。

そうして前から来た奴がゲンコツで殴りかかってきた。

でもその時の一瞬、その子の足が地を離れて蹴り上げた。悪い奴の急所をナ。(笑声)

勿論そいつはひっくり返ってしまうし、後で手を押さえてた奴は驚いて逃げて行ってしまう。

でも、顔を覚えていたので、後で会った時に何発かのゲンコツを顔に食らわせた。

騒ぎになって、先生が色々と聞いたが言葉が通じないから、全然分からない。

先生からお家に電話があって、お父さんがその子の言い分を聞いて先生に説明し、確かに悪いのは先方であることになった。

その件以来、誰もその子にイジメなどしないで、仲良くクラスに溶け込んだらしい。

その悪い奴等は今迄散々酷いことをしてたんで、日本から転校してきた子に殴られて、ザマミヤガレと思った者が結構いたのだろう。

すぐにその子は言葉を使えるようになって、大学を卒業してから、お父さんと同じように外国勤務をしてるそうだが、その事件以来、実力行使をしたことは無いそうだ。ちょっと勿体ないような気もするがな。(笑声)

 

 先生は良く言うけど学校で一番大事な勉強は体育だ。「健全な精神は健全な肉体に宿る」なんてのは戦争中に強い兵隊を作る為のインチキ標語だと思うけれど、虐められてべそをかいて逃げてくようじゃ駄目だな。

お母あちゃーーんなんてなんて言っちゃってさ。(笑声)

相手が悪いんだったら本気でやり返す。引っかかれたらぶん殴る。ぶん殴られたら食らいつく位でなけりゃあな。(笑声)

 

 どうだ。一回スイスに行って現地体験して見るか。行く前に徹底して空手や柔道の稽古をしてな。(笑声)

日本男子ここにありと言う気概を示すんだ。

アルプスの少女ハイジみたいな子と、仲良くなれるかも知れないぞ。(笑声)

 

<脱線千一夜 第181話> 

 


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