エイズとオートバイ

 

 発電所から電線通ってやってくる電気には、50サイクルと60サイクルとがあるのは知ってるな。

電球や電熱器なんかだったら構わないが、モーターの付いてる物等はその周波数に合わさないといけない。

このあたり東日本は50サイクルだが、先生は映画の映写機やレコードプレイヤーなど買って、家で回してみたら凄く遅い。

もう一回箱を見たら60サイクル用と書いてあるので又店に持って行って替えて貰ったことがあるが、以前にこの話をしたことがあるな。

 

 その時にも言ったけれど、怪我をすると血が止まらない血友病と言う病気の薬をアメリカから買ったら、それにエイズのウイルスが入っていて、大勢の血友病患者がエイズに罹(かか)ってしまった。

本来ならすべてこの責任はアメリカにあり、毒入りの薬は引き取らせ、弁償金を払わせるんだが、敗戦国の日本は泣き寝入り。情けないもんだ。

 

 所で、こないだこれの逆バージョンと言うのを本で読んだ。これは薬じゃなくオートバイらしい。

みんなも知っての通り日本のオートバイは世界一流だ。だから外国に沢山輸出されてるけれど、アメリカである時、酔っぱらった奴がヘマやって怪我した。

勿論こりゃあ酔っぱらい運転した奴が悪いに決まってるんだが、泥棒にも三分の理と言うわけでグズり出した。

俺は悪くない、このオートバイのスタンドが悪い。これは欠陥車だ。こんな物を売りつける日本の政府やメーカーは、どうやって責任取ってくれるんだと大騒ぎをした。

それに悪徳弁護士達や、日本の経済発展に腹を立ててる政治屋達が一緒になり、日本のメーカーに莫大な弁償金を吹っかけた。

そのオートバイの会社は仕方なく弁償金を払ったそうだが、それが何と、アメリカでの一年間の利益がフイになってしまう位だったそうだ。

 

 酔っぱらって怪我したのに、そんな莫大な金を弁償するんだったら、毒の薬を売りつけたアメリカの責任はどうだろう。

気の毒な血友病の患者達を大勢エイズに感染させ、沢山の死者を出したんだから、アメリカは日本に「莫大」の「莫大」倍の、そのまた「莫大」倍の、(笑声)  弁償をしなけりゃならないな。

え? それでも足りないって?

「莫大」の「莫大」乗だって? (笑声)

 

 とにかく、今の日本は明治の初めの頃と同じで「不平等条約」されてんだから、官民こぞって当時の日本のように、新生日本を造るように努力せにゃならんのに「平和ボケ」してる者が多すぎるんだな。

このだらしのない世の中に悲憤慷慨し、憂国の情を持って熱弁を振るう志士の現れるのを、切に期待するな。例えば先生みたいな人間さ。(笑声)

みんなは運がいい。憂国の志士の熱弁を聞くことが出来たんだから。(笑声) 

 

 

<脱線千一夜 第180話> 


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