記者とインチキ記事
先生は新聞記者を初め、テレビやラジオの記者は大嫌いだ。
まず、第一に無遠慮な奴が多い。
全員が制服を着た、きちんとした式典の時でも、ジャンバーにGパンて格好で、どでかいカメラかついで、図々しく歩き回ったり、事故で死者が出た時に、泣き濡れている家族にマイクを突きつけて、しつっこく聞く。
それからこれが一番問題だが、都合の悪い事は全然出さない。
分かっていても、しらばっくれて出さない。
テレビにヤラセがあるように、新聞だって、嘘の記事を平気で出す。
一般の大衆は、まさか大新聞が嘘なんて書くはずないと思ってるから、簡単に騙されちゃう。
とにかく、けしからんのは、自分等が「無冠の帝王」だなんて、うぬぼれているくせに、その時その時の権力に卑屈で、有名な話がある。
ナポレオンがコルシカ島を脱出して、フランス王に返り咲いた時、パリの新聞が面白い。
初めのニュースは「コルシカの悪魔は島を脱出した」とある。つまりナポレオンを「悪魔」扱いだ。
それから、五日ばかりたったら「ナポレオンは○○○を占領した」となった。
一応ここで中立的な報道になった。
それから、五日ばかりたって、いよいよナポレオン軍がパリに入城する際は「ナポレオン皇帝陛下はパリに凱旋された」となる。
つまり、十日ばかりの間に「コルシカの悪魔」から「ナポレオン皇帝陛下」に大出世だ。(笑声)
凱旋と言うのは、戦争に勝って意気揚々と還って来る事だよ。
でも、フランスをバカに出来ない。
日米戦争中の日本の新聞だってひどいものだ。
天皇陛下は神様で、日本は神の国、日本軍は神の軍隊、それに逆らう敵は、鬼畜米英、つまりアメリカ人やイギリス人は鬼や畜生ってわけだ。
それ迄は「偉人伝」に入っていたワシントンやエジソンが、突然、偉人から畜生つまりブタに変身しちゃった。(笑声)
以前、お札に「板垣退助」の絵が書かれていた事があったけど、自由民権運動の推進者の板垣退助は、ある時、暴漢にピストルで撃たれたか、ナイフで刺されたかした時「板垣死すとも自由は死せず」と、かっこいい事言ったって伝説がある。
俺一人死んだからって言っても、政府は、全世界的な自由主義の流れを止められるものか。なーんて男一匹、政府を相手にして、イキのいいもんだ。だけど本当は「痛え痛え。早く医者を呼んで来い」って言ったのが、事実らしい。(笑声)
それから、それからだよ。日本の忠勇無双な兵隊さん達が、戦争で敵に撃たれて死ぬ時になんて言ったか知ってるか。
そうだ。よく知ってたな。「天皇陛下万歳」って言って死んだんだ。「板垣死すとも自由は死せず」は嘘だけど、「天皇陛下万歳」は本当だ。
板垣の方は、新聞社は板垣に賛成派が多かったんだ。
だから、板垣退助一人の死によってこの自由民権運動の大きい流れを覆すことは出来ないって盛んに書いたんだ。
といったわけで、誰が言ったか知らないが、こんな嘘がまことしやかに通ってしまった。
それに比べて「天皇陛下万歳」の方はと言うと、ものすごく、気違いみたいに天皇陛下を崇拝してる兵隊がいたんだろう。その兵隊が戦場で怪我をして、死ぬ時に「天皇陛下万歳」なんて言った言葉を祭り上げ、これが真の大和魂だ。日本の兵隊さん達はこのように世界に比類の無い大和魂の持ち主ばかりだ。なーんて新聞なんかが騒いだもんだから、言わなきゃあカッコつかなくなっちゃったのさ。
パイロットが十人いて、「特攻隊に志願する者は一歩前に出ろ」って言われ、他の九人が出たら、もう、引っ込みがつかねえから、自分も出なけりゃどうしようもない。
そうすると、新聞じゃあ、「麗しき若桜、全員が特別攻撃隊に志願。この大和魂を見よ」なんて按配に、調子にのった記事が出る。何のこたぁない。戦争中は新聞に踊らされて、バカな事やってたんさ。
それで、勝った勝ったとウソばかり宣伝されて、それを本気にしてた。
実際は、負けた負けたの連続さ。(笑声) それを、新聞屋共は、一般民衆と同様に知らないならとにかく、奴らは全部知ってたのさ。
え、原爆、あれはアメリカでも秘密で、アメリカの新聞記者達も知らなかったんだから、そこ迄は分からかったろうけど、日本が降参する日も知っていて、降参しても暴動が起きないように、天皇陛下を利用して、うまく記事を作ったなんて事もある。
こんなふうに、その時の権力者にくっついて、一般民衆をダマシてる奴ばらが、こと、自分等の事を何って言うかというと、アキレタ事に「報道陣」なんて言ってるよ。
「報道人」なら分かるよ。「報道陣」だとさ。
○○陣って言うのは、ある程度、相手を尊敬した言葉だ。○○大学の「教授陣」とか言ったようにさ。
所が、記者達が自分達の事を「報道陣」とは一体なんたる事だ。だったら、先生達は「教諭陣」生徒達は「生徒陣」ヤクザ達は「ヤクザ陣」ホームレス達は「ルンペン陣」だ。(笑声)
まあ、「報道陣」なんて威張らないで「報道記者達」とするのが、正しい書き方だろう。
新聞が間違った書き方したんじゃあバカにされてもしょうがない。
実はナ。先生がまだ子供の時、新聞記者、特にニュース・カメラマンになりたいと思った時があった。
そうしたら、家で怒られちゃったよ。新聞記者なんかなるもんじゃあない。あんな奴、ゴロツキだ。(笑声)
あっと、この組にはお父さんが新聞社に勤めてる者がいたっけ。
何、経理だって、こりゃ助かった。でも、今の話、お父さんには内緒だぞ。(笑声)
<脱線千一夜 第36話>
前へ戻る メニュー 次へ進む