死刑

 

 この間、さかさはりつけの話をしたら、昔の死刑の話をしてくれって何人かに言われた。

先生は死刑の専門家じゃないし、あんまり詳しくないよ。

実際の死刑を見た事もないし、ましてや自分が死刑になった事もないしサ。(笑声)

だけど、知ってる事を話して見ると、死刑で一番有名なのは磔(はりつけ)だ。

木を十文字にして、それに囚人をくくりつける。

その方法に二通りあるが日本とヨーロッパでどう違うか知ってるか。

そうだな。日本は縄で縛るがヨーロッパは釘で手と足を木に打ち付ける。

教会にあるキリストの十字架像を見りゃ分かるよ。右手と左手は掌を木に釘で打ち付けてある。足は左右を別々に打つと釘が二本いるから、左足と右足を重ねて、節約して釘一本で打ってある。(笑声)

そうだ。何人か知ってたね。

そうして、この十字架を立てて下から槍で刺し殺すと言う訳だ。

いきなりズブリと刺すんじゃない。

槍を持った死刑執行人が二人いて、まず始めに「アー、コリャコリャ」なんてかけ声を挙げて、死刑囚の目の前で二本の槍をチャンチャンとやる。

ちょうど、食事の前にフォークとナイフをチャンチャンとやるのと同じだ。(笑声)

これをやってから、左側の者が左の脇の下を狙ってズブリと差して引っこ抜く。次に右側の者が右の脇の下を狙ってズブリと差して引っこ抜く。

これを二回位やればそうとう図々しい悪党もお終いだ。

この後、放って置いて骸骨になるまで腐らしたり、首を切って街角に晒し物にする獄門というのもある。

 

 とにかく、悪者を殺す時には、出来るたけ一般民衆から見て残酷に見えるようにして、悪い事すりゃ親子兄弟皆こんなひどい目に会わすぞっていうのをX型とすると、こんな奴はいっぺんに殺っしゃもったいない。ジワリジワリと殺してやろうというY型の二通りがある。(笑声)

どっちにしろ死刑には変わり無いけどな。

 X型、つまり残酷に見える方は、この磔以外に、八つ裂き、串刺し等がある。

八つ裂きってのは首や手や足を縄で縛って馬につなぎ、合図と同時に馬を走らせるわけで、一瞬にして死刑囚はバラバラになってしまう。八つ裂きと言っても、首、両手、両足、それに胴体だから、実際は六つ裂きだ。

昔、中国で秦の始皇帝を暗殺しようとして失敗した荊軻が、この八つ裂きの刑にされたことは有名だね。

串刺しなんてのは、まるで鳥の串焼きのように、人間を槍でお尻から口まで突き通すので、大人はいささか無理で子供相手だ。

敵の殿様の子供の内、女の子は生かしておくが、男の子はこの串刺しで殺してしまったりする。

昔、平治の乱の後、負けた源義朝の息子の頼朝、範頼、義経達を平清盛は殺さなかったので、成人してから謀反を起こされ、反対に平家が壇の浦で滅ぼされたという事があるので、男の子は全部殺してしまう。

織田信長の姪に当たる淀君の弟のなんとか丸は豊臣秀吉の手によって、串刺しで殺されたと言われる。

でも、このタイプは見た目にはとても残酷だが、殺される本人は一瞬の事だから、さして苦しむといった事はない。

でも自分がやられるのは、真っ平ご免だがな。(笑声)

 

 Y型の方はそれに引き換え、ジワリジワリと殺す。

竹ノコギリというのは、体を土の中に埋め、地面の上に出ている首を、竹のノコギリでゆっくりゆっくりと挽いて行く。

「山椒大夫」の中にあるね。母と姉の恨み骨髄に撤すという訳だ。

釜茹でもそれに近いかも知れない。始めはぬるくてもだんだんと熱くなり、いても立ってもいられなくなる。気絶したら水ぶっかけて生き返らせて、茹で直す。(笑声)

竹ノコギリもそうだけれど、出来るたけ大きい悲鳴を上げさせて、大勢の民衆に聞かせる必要があるから、ゆっくりやるんだ。

釜茹では石川五右衛門で、安土桃山時代であまり昔じゃないが、中国では漢の高祖が死んだ時、高祖の妻の呂氏は夫の愛人を残酷に殺した。

目をくりぬき、耳の中を焼き、手や足を切り、人間豚という名を付けて、クソツボの中に放り込んだというから物凄い。

げに恐ろしきは女の嫉妬なるかな。ご令嬢達、お気をつけ召されれよ。(笑声)

 

<脱線千一夜 第43話> 


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