プルトニウム

 

 核分裂とか核融合とかってものがあるけど、簡単に言うと核分裂とは原子爆弾、核融合とは水素爆弾だ。

このうち水素爆弾の方は原子爆弾の何百倍の力があって、原子爆弾でも広島や長崎の都市を一発で灰にしてしまったが、水素爆弾は一発で関東地方全体を蒸発させるような力が有る。

それでいて、燃料は何と水、くわしくは重水といって水の中にわずかに含まれている物だが、水は海に行けばいくらでもあるんだから、燃料に困る事はない。

だから、爆弾なんかにしないで、ゆっくりと燃やして電気を起こせばこんなにいい事はないんだが、それがうまくいかない。

原子爆弾をゆっくりと燃すのは原子炉で、小さいのは潜水艦用、大きいのは発電所用といろいろあって、日本では電力の三分の一位をこの原子力によって発電している。

それにひきかえ、水素爆弾をゆっくりと燃やす、つまり核融合による発電は世界中の科学者達が何十年も研究しているが、なかなか完成しない。

この前、常温核融合という簡単な方法が発明されて大騒ぎだったが、ものすごくお金がかかって使い物にならない。

例えて言えば、百円の電気を作るのに、百億円の費用がかかるようなもんだ。つまり九十九億九千九百九十九万九千九百円の損だ。(笑声)

でもいつかはこの海の中に無限にある重水を使って核融合発電が成功し、安く電力が供給される次代が来るだろう。

そうして、これの良い所は放射能の灰を出さないという事だ。

こんなに申し分のない物だが、残念ながらまだ研究中、そこでそれ迄のつなぎをどうしたらいいかという事だが、高速増殖炉というのが考えられた。

これは何かと言うと、つまり灰を燃すのである。

原子炉は原子爆弾と同じくウランを核分裂させるのだが、この時にプルトニウムという物が出来る。

このプルトニウムはウランと同じく原子爆弾に使われるんだが、高速増殖炉はこのプルトニウムを使う。

簡単に言うとプルトニウムが一キロ含まれている燃料を使って発電する。そうすると、灰の中にプルトニウムが二キロ出る。これを使って発電するとプルトニウムが四キロ出来る。

つまり、一万円で何か買って二万円おつりをもらうようなもんだ。こりゃこたえられないね。使えば使うほど貯金が増える。どっかにこんなカードを出してる銀行ないかね。(笑声)

まあ、こんなにうまい話、放っとく訳がない。

だが問題は山積みだ。まず、プルトニウムは原爆の原料だ。

日米戦の時の原爆は、広島のはウランで、長崎のはプルトニウムだ。

そうして、今は技術が発達しているので、長崎の時の五分の一のプルトニウムで原爆が出来る。

プルトニウムは原爆の材料だから、とにかくうるさい。高速増殖炉でジャンジャンとプルトニウムを作れば、内緒で少しばかり隠しておいて原爆作っているだろうなんて詰まらぬ事うたがわれる。

日本は原爆でひどい目に合った世界中でのたった一つの国だから、そんな物を作る訳はない、国民が許さないのだが、日本の政治家達のウソツキは国際的に有名なんだろうな。どこの国でも信用してない。

先生も勿論、日本の政治家なんかは信用してない方だ。(笑声)

 

 それからこのプルトニウムはそれ自身の性質が何とも困り者で、まず、猛毒で青酸カリやサリンの比ではない。

その上に強力な放射能を出す。

放射能と言ってもピンとこないかも知れないが、つまりは見えない光、それも生き物にとってとても害になる光である。

光の中でも紫外線なんかは沢山浴びると皮膚ガンの原因になるらしいが、放射能は血のガンと言われる白血病を引き起こしたり、色々な病気になる。

日米戦中にアメリカでは、あと十年も生きられないといった重病患者に、プルトニウムを注射して人体実験をしたそうだが、たまげたね。

日本軍は中国兵の捕虜を使って人体実験をしたが、日本兵の捕虜がアメリカ軍によって人体実験されたかどうか、何とも分からない。

戦争ってのは兵隊から指導者までひっくるめて、みんな気違いにしちゃうものなんだ。

こんな訳で広島や長崎の原爆で命は取りとめたものの、沢山の放射能を浴びて被爆者として早く亡くなった人は大勢いる。

そうだ。「はだしのゲン」のマンガにくわしく書かれてあるから、興味ある人は調べてごらん。

それから、テレビでやってたが、実際に原爆を爆発させてそこに攻撃して行く演習に参加したアメリカ兵が、放射能被爆で手が野球のグローブみたいに膨れ上がっているのも見た。

だから、このプルトニウムが入っているタンクにひびが入っていて、中身が漏れ出したら、さあ、大事(おおごと)になる。

これは実際にアメリカであった事らしい。船なんかに積んであって、嵐で難破すりゃもうアウトだ。

その一方でプルトニウムを灰の中から分離する工場は日本にはない。フランスなんかに頼んでやってもらう訳だ。

そこでプルトニウム輸送というのが問題になる。

プルトニウムを輸送する船がいつ、どんな事故を起こすか分からない。勿論、嵐で難破するかも知れない。という訳で「グリーンピース」なんて環境保護の団体が大騒ぎを始める。

実際の所、プルトニウム輸送船は原子力潜水艦なんかに比べりゃ、はるかに安全に作られてるんだ。ギャーギャー騒ぐんだったら、原子力潜水艦追っかけろって言いたいよ。

もっとひどい事もある。アメリカの航空母艦が嵐に逢って、パイロットも原子爆弾も一緒にジェット機を海に落っことっしゃったって事があった。

だから、今もそのジェット機はパイロットの死体と原子爆弾積んだまま海の底に沈んでいる。

どこに沈んでるんだろう。え? 東京湾。(笑声) そんなに近くじゃない。沖縄の沖合いだ。

飛行機に載せたままだから、安全装置がかかってるだろうが、長い間に錆びてとろけて外れてしまい、地震でもあったら、ドカンと来るかもしれないぞ。

発表は原爆だけど、そんな事当てになりゃしない。水爆かも知れない。

海底で原爆の何百倍の力のある水爆が爆発したら、大津波が起きるだろうな。

沖縄でのんびりと海水浴していたら、いきなり高さ何キロメートルの大津波が来る。

何? 俺、沖縄には行かねえって。安心しなよ。安全装置が壊れる頃は、信管、つまり、起爆装置も壊れていて爆発はしないだろう。

だからったって、沖縄に行った時にたまたま爆発したって責任はとらないよ。(笑声)

 

<脱線千一夜 第46話> 


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