夢野久作の教訓童話「先生の眼玉に」

 

 夢野久作って言う小説家のこと知ってるか。え、ドグラマグラ、おや、よく知ってたな。

大昔に「雨月物語」って言う、幽霊が出てくる話があるが、それの流れで、橘外男とか江戸川乱歩とか、文学の本流から少しはみ出した、おどろおどろしい世界を描いている。

今の話のドグラマグラなんてのは、赤ん坊が生まれてくる前に、お母さんのお腹の中で見た夢の話だ。いいかい。生まれてくる前にお母さんのお腹の中で見た夢だよ。

先生もたまに夢を見るけど、こりゃ面白いからあらすじをメモしとこうなんて思って、鉛筆取りに行く間にもう忘れちゃってる。(笑声) みんなも多分そうだろうな。

だから夢野久作は物凄い記憶力があって、暗記物はバッチシ、東大をトップで卒業して政界入りし、総理大臣にならなかったのは不思議だが、まあ、これは小説の話。

 

 所でたまげたことに、この夢野久作の作品の中に、童話が沢山ある。

どろどろした変な話が多い夢野久作で童話なんて似合わないような気もするが、名前のなかに「夢」があるからには、子供達に夢を与えようと言う訳なんだろう。

それに、この頃は日本はとても貧乏で、子供は自分のお金で本を買えない。本は親が買って与えるという時代だから、内容はいわゆる「為になる話」つまり「教訓童話」が多い。

だから夢野久作も、大人向きはどろどろした物、子供向きは教訓童話と書き分けていたんだろう。

 

 彼の書いた童話の中で、一つ、面白い物を紹介しよう。題は「先生の眼玉に」って言うちょっと変わった奴だ。

子供達が遊んでいると、パラパラと雪が降ってくる。

子供達は喜んで「ヤーイ、ヤーイ、雪が降ってきた。砂糖になれ。塩になれ。」と騒いでいると、白い髭を生やし、白い帽子で白い着物、氷のツララの杖をついたお爺さんが現れる。

このお爺さん、本当は魔法使いなんだけど、子供達に「砂糖になったらどうするね」と聞く。子供達は口々に「お餅に付けて食べる」とか「お婆さんに持っていって上げる」とか「お庭の蜜蜂に上げる」なんて可愛いこと言ってるが、次にお爺さんが「じゃ、塩だったらどうするね」と聞いたら、すかさず、ろくでなしの悪太郎が答えたんだ。

何て言ったと思う。・・・・・・雪が塩だったらだよ。・・・・・・何、沢山集めて袋に入れてスーパーで売る。(笑声) 成る程、せちがらい世の中だから考えることが昔と違うな。

答えはナ。「雪が塩だったら、先生の目に擦り込んでやる。」(笑声)

こりゃー大たまげで、プールで目を開けるのはまだいいとして、海じゃ塩水だから眼が痛くなる。ましてや、いきなり塩を眼の中に擦り込まれたら、目が潰れちゃうよ。

この悪ガキは、しょっちゅう悪さやっちゃあ先生に怒られてたから、凄く逆恨みしてたんだろう。

何、その気持ちよく分かるだって。(笑声) 今言った奴はこのろくでなしの悪太郎の同類だな。さあ悪太郎がどうなるか、よく聞いとけよ。

さて、これを聞いた魔法使いのお爺さんは、急にキッと怖い顔になって「よし、望み通りにしてやるから待っておれ」と言って消えてしまうと、物凄く雪が降り出した。

と思ったのは間違いで、雪でなくて砂糖。こりゃおいしいおいしいと子供達は大喜びだったが、何と悪太郎の所だけは塩。(笑声)

この塩を使って先生の目に擦り込んだらいいだろうって訳なんだろうが、次から次へと降ってくる吹雪、いや、塩だから吹塩だろう。(笑声)

 頭から眼、耳、鼻、口、襟の中から袖の中、手も足も背中もお腹も塩だらけ、雪ダルマならぬ塩ダルマと言ったところだ。(笑声)

眼が痛くて泣きながら家に逃げ帰ったそうだが、ダルマだから転げ帰ったとでも言うのかな。(笑声)

 

 さて、昔の本にはこのように悪い奴が悪い報いを受けるという話が多い。

つまり教訓で、このような話を小さいときから繰り返し繰り返し聞かせ、本の中に、ろくでなしの悪太郎が塩ダルマになって、泣きながらごろごろ転がって逃げていくのを、子供達が砂糖をなめながら笑って見ている挿し絵なんかあれば、魔法使いなんかいないと分かっていても、悪いことを言ったりやったりしないようにしようとする心が生まれる。

所が近頃は下らない本やテレビばかりだから、白痴的、色情狂的な心ばかり生まれる。(笑声)

 

 先日も成人式の時に式場の中で酒飲んでバカ騒ぎして、挨拶してる市長さんに花火を飛ばした悪太郎がいたよな。

あのテレビ見た者大勢いたと思うが、肝心の悪太郎達に網をかけて、顔を消してしまったのは、テレビ屋達どういう了見なんだろう。

成人式だから成年で、自分で責任を取らなきゃいけないんだ。タバコや酒がオオッピラなら、悪さすりゃその顔もオオッピラになるんだ。(笑声)

こんな奴こそ眼に塩を擦り込んでやりたいな。何、塩じゃ生ぬるいから硫酸がいい。(笑声)

いやそこ迄やっちゃあ、ワルでバカで目も見えないって言う障害者が増えて、国の赤字がどんどん膨らんで、日本は今以上の貧乏国になっちゃうぞ。

何、貧乏になりゃあ、漫画本も買えない、テレビもないから教訓童話が復活するって。成る程、こりゃ遠大な計画だ。(笑声) 

 

<脱線千一夜 第72話>                                                   


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