ヒットラーと公共事業と孔子と中庸
ヒットラーがオリンピックを利用して、東ヨーロッパを侵略するための偵察をしたり、メダルを沢山取って、ドイツ国民こそ選ばれた民族であると言ったマインドコントロールをやったことは、以前に話したな。
このヒットラーは、どのようにして人気を取って政権についたかというと、メチャメチャになっていたドイツ経済の建て直しをやったんだ。
どの位メチャメチャかって言うと、物凄いインフレ、物価が毎日のように気狂いじみて上がる。
旦那さんが死んで、奥さんが生命保険のお金を貰いに行ったら、電車賃の方が生命保険で貰えるお金より高くて、損をしちゃったなんて話があるくらいだ。(笑声)
以前に、1マルクで買えた物がどんどん値上がりして、千マルクでも買えない、一万マルクを突破してしまう。やがて十万マルク、百万マルク、千万マルクと値上がりし、ついに一兆マルクに近づく。もう、こうなると、お札の金額の丸を勘定するのが大変だな。(笑声)
そこで、今迄の一兆マルクを新しい1マルクにした。(笑声)
このようなメチャメチャなドイツを、立て直してくれるなら、誰でもいいっと言った訳なんだが、その時に登場したヒットラーは、ドイツを、この不景気で失業者だらけの国から、必ず復興させると約束した。
一家に一台は自家用車があるような、ゆとりのある国にすると言った。
ヒットラーがまずやったことは、自動車の神様と言うべきポルシェ博士に命令し、安くて性能のいい自動車を研究させた。
そうして出来上がったのが、カブトムシのようなカッコして、みんなも知ってるフォルクスワーゲンだな。
次に、町にあふれかえってる失業者を何とかするために、何をやったかって言うと、これ又、どこかの国でセッセコやってる公共事業だ。
公共事業って言うと、何やるかってとな。ドイツ中に網の目のように高速道路網を作っていった。
安くて、丈夫で、スピードの出るフォルクスワーゲンと高速道路網によって能率が上がり、ドイツの産業は飛躍的に向上したという。
又この高速道路というのが凄い。いったん戦争が勃発したら、戦闘機が離着陸できる滑走路としても使えるって代物なんだそうだ。
何? 自動車で走ってたら、後ろから飛行機が降りてきて追突される、自動車と飛行機の交通事故だって?(笑声)
海だったらさしずめ、ハワイ沖のアメリカ原潜と、えひめ丸みたいだな。
でもまあ、そんなこたあ起きないよ。空襲中で敵味方の飛行機が入り交じってドンパチやってる時に、のんびり高速道路走ってる車なんか無いよ。野球やサッカーの試合とは違うからな。
尤も、ドウリットルの東京上空30秒と言う、航空母艦から飛んできたアメリカのB25ミッチェル爆撃機隊の日本初空襲の時は、見物するんで屋根に登って滑って落ちたり、木に登ったはいいが枝が折れて墜落したり、(笑声) 結構そんなのんびりした輩(やから)が多かったそうだな。
まあ、このようにしてヒットラーはドイツの経済の建て直しをやったが、このような物は、拡大再生産と言って、自転車みたいな物なんだ。
自転車ってのは、走ってないと倒れちゃう。ヒットラーの始めたドイツ経済も、走り続けないと行き詰まってしまう。
そこで、次々と近隣諸国を蚕食し始めた。
始めの内は、金持ち喧嘩せずなんて、ヒットラーを放っといた国々も、自分達の権益が侵害されてきたので、連合してワッとばかりに叩いた。
ちょうど、前に話した図々しいチンパンジーをみんなで叩きのめしたみたいにな。
あの時に、あのチンパンジーはどうやってピンチを脱却したか覚えてるか? そうだな、スカンク式退却法だな。(笑声)
ウンコ漏らして、こりゃ臭くてかなわねえって、ひるんだ隙に逃げちゃうって寸法だが、人間の戦争じゃそんなチャチなことは通用しない。ついにヒットラーは自滅と言うことに相成ってしまった。
所で日本という国は、依然としてこのヒットラーの始めた公共事業やって、使い物にならない道路やダム、港など造って、経済はいつまでもどん底、赤字の垂れ流しをする。
ドイツはインフレーションだったが日本はデフレーション、物価は上がらなくていいような物の、経済は沈滞して底無しの不況。
どっちにせよ困ったもんだ。
昔、中国の孔子が言ったように「中庸」が一番だな。インフレも駄目、デフレも駄目、その中庸がいいって言うわけだ。
実はこの事を、孔子は実にうまい物を使って説明した。
底が小さく口も小さい壺がある。この壺を机の上に置くと、ころりんと転がってしまう。
じゃ、水を入れたらどうかって言うと、途中まで入れるとこの壺は、きちんと立つ。
じゃあ、もっと入れたらどうかって言うと、水を入れすぎると、又、重心がずれて倒れてしまう。
つまり、水を入れ過ぎても、足りなくても駄目。丁度いい塩梅だと、きちんと立つと言ったものだ。
これを使って中庸の大事さを説明したと言われるが、君達、この壷の仕掛けが分かるかい。難しいか。
種はとても簡単なんだ。
壷の片方の中側の壁に大きい軽石がついてるんだ。
水がなければ、軽石の方が重いから軽石の方にひっくり返る。
水を沢山入れると、水の方が軽石より重いから、水の方にひっくり返る。
水の重さと軽石の重さとがうまく釣り合えば、きちんと立つと言った塩梅なんだ。
これは別の話だが、重い鉄の塊が舞台の上にあって、力自慢の観客が何人も次から次へと挑戦しても、全然びくとも動かない。
そこで魔法使いが出て、聖書を出して祈ってから持ち上げると、今迄びくともしなかった鉄塊が、軽々と動く。
成る程、キリシタンバテレンの妖術というのは凄いと帰依する者が増えたんだろうが、何のこたないよ。舞台の下に大きい電磁石を付け、観客がやるときには、電気を流して鉄塊を吸い付けてたんだ。(笑声) 孔子の中庸もこれに似たようなもんだよな。
テストなんかの後で、おっ、50点だ。0点と100点の真ん中だ。俺は中庸だ。(笑声) 孔子の教えにぴったしだ。孔子万歳、中庸万歳、インフレもデフレも跳ね返して、俺は総理大臣になってやる。(笑声)
なんてのはおかしい。何故って、考えがあまりに中庸に傾きすぎて、それじゃ、中庸でないって事になるからな。(笑声)
<脱線千一夜 第83話>
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