せんせーよけーなこといわんでーな

 

 大分以前のことだったが、林間学校で八ヶ岳に行った時の事だ。この学校の林間は菅平だけどな、その学校は八ヶ岳だった。

八ヶ岳知ってるか。そうだな。中央線で南アルプスの反対の北側に見えるな。

八ヶ岳って言うから八ヶ岳って山があるのかって言うとそうじゃないんだ。沢山の山があるからそれを纏めて八ヶ岳って言う。

日本語じゃ「八」と言う数に沢山という意味を持たせている。「八百屋」とか「大江戸八百八町」とか「八方美人」とかいったふうにな。

みんなに似合ってる「ウソ八百」なんてのもある。(笑声)

 

 所でその沢山の頂上のある八ヶ岳山系だが、この中で一番高く代表的なのは「赤岳」で、岩に鉄分が多く含まれてるせいか、赤っぽく見えるのでこの名がある。

その他「権現岳」「阿弥陀岳」「横岳」「編笠山」とかあるが、中学生の登山じゃ、例え登れても赤岳なんかは危険だ。

断崖で落ちたらそれっきりなんてのじゃ、教育委員会から許可が出ない。前に話したけど、小学生でも登れる、山と言うより丘みたいな高尾山で落っこって、暫く植物人間やった奴もいるんだからな。

そこで、一番手前で登り易い編笠山に登る。そうして途中、権現岳への道との分岐の所で、十分に体力が余ってる男の子なんかは、若い体育の先生なんかに連れられて、特別コースの権現岳に行く。

え? 先生? 先生はいつも編笠組だ。(笑声) だけど、若い時に権現岳から赤岳へと縦走やった事もあるんだから、バカにしちゃいかんゾヨ。

その時は道に迷って、赤岳の断崖絶壁を必死で這い上がったが、いつかその話をするときもあるだろう。

 

 とにかく編笠山の頂上に登って、ゴツゴツした大きい岩盤の上で弁当食べて、暫く休んでからさあ帰ろうとしたら、たいへん、女の子が四人いない。

誰か知らないかと聞いたら、その四人はどこそこで一緒に弁当を食べていた、でもその後どこ行ったか誰も知らない。

しょうがないから先生達があっちこっち探しに行って、大きな声で怒鳴ったけれど、見つからない。

編笠山は遠くから見ても分かるけれど、てっぺんは岩だらけで木なんか生えてないから見晴らしがいい。これだけ探していないんだから、アイツラ、勝手に降りちゃったんじゃないかって事になった。

そこで先生が急いで降りながら探すことになった。途中、木の枝に女の子が引っ掛かっていないかなんて、気を付けながらナ。(笑声)

 

 さて、どこにも引っ掛かっていない、どこにも落っこっていない、(笑声) 怒鳴っても返事が返ってこない。

とうとう一番下のバス停まで降りてきたら、なんのこたない。チャッカリとベンチに四人で腰掛けてお喋りしてやがる。(笑声)

他人をすごく心配させ、全体を何十分も頂上で足踏みさせ、先生なんか危ない降り坂を急いで降りて来て、生命の危険すら感じたのに。(笑声)

こいつら、のんびりとベンチでお喋りなんかしてやがって、怒鳴りつけてうんと怒ってやった。

集団生活なんだから一部の物が勝手な行動をしたらメチャメチャになっちゃう。お前達を探すんで随分と時間食って、みんなとっても心配してたんだぞ。

勝手な行動するんなら個人で行け! 個人で行きゃ、学校で行く何倍もお金が掛かるんだ。それを安く行けるんだから、ちゃんと先生の言うこと聞けなんて、散々怒っていたら本隊が降りてきた。

そうして勝手なことしたヤツバラは、今度は学年の先生や担任の先生から、またまた怒られるやら、宿舎に帰ってきてから便所掃除させられるやら、(笑声) いくらか自由の空気を吸えたからってたって、あったもんじゃねえな。

 

 所でこれの反対ってぇのもある。つまり、さっさと早く行ってしまうんじゃなくって、いつまで待っても来ないって奴だ。(笑声)

前にディズニーランドに行った時なんだがな。これは男だけど、やはり四人、時間を過ぎても帰ってこない。

仕方ないから探しに行ったけど、あの広い所だ。見つかるわけ無い。

10分たち、20分過ぎ、30分、40分、50分、1時間。(笑声)

でも、こりゃあ山と違って事故じゃない。事故だったらディズニーランドの会社からすぐに連絡が来る。

アイツラ夢中で遊んでやがるんだ。こんなに待つんなら、俺達も早く戻って来ないで遊んでりゃよかったなんて、ブーブー言い出す奴が出てくる。1時間も待たされんだから、当たり前だよな。

そこで校長先生が、仕方ない、他の生徒をこれ以上待たす事は出来ない、後は本人の責任と言う事で出発しましょうと、そのまま置きっぱなしにして帰って来ちゃった。(笑声)

そいつ等どうしたかって? 電車で帰って来たってさ。次の日にこれも散々怒られてたよ。

何? 便所掃除やらされたかって?(笑声) さあ、そこ迄は知らねえな。

 

 まあ、こういった奴等の為に、先生達の中にもオイダシ係って言うのがある。(笑声)

つまり、ぐずぐずしてる奴を見つけると、もう時間ねえぞ。早く行かねえと便所掃除だぞって追い出す係だ。(笑声)

これは修学旅行で京都に行った時の事なんだが、嵯峨野で自由行動の時間がある。

嵯峨野の道はいろいろの神社仏閣があって、そこを列になって行く訳にゃ行かない。だからグループ毎に纏まって行動する。

事前学習で特に関心を持った所では十分に時間を取り、そうでない所は簡単に飛ばして行ってもいいと言った塩梅だ。そうして最後には天竜寺と言うところが集合場所で、そこに何時までに集まれと言うことになっている。

 

 時間が過ぎ、あと十何分かで集合と言う時になると、一番後の方から、このオイダシ係の先生が、途中で引っ掛かってる奴を注意して追い出す。

どんな所に引っ掛かってるか分かるな。

和尚さんにお寺の曰く因縁を聞いて感心し、時間の過ぎるのを忘れてしまったなんて殊勝な奴はいやしない。引っ掛かってるのは土産物屋だ。でも、この土産物を買うってえのも、大事な教育なんだ。

いかにして少ない費用で、大勢の家族や友人に喜んで貰えるような物を買って帰るかと言う、つまりは、数学と経済学と心理学と情操教育の合体教育と言うべきだな。(笑声)

だから土産物を買うのも大事な教育の一つなんだが、そこでのんびりしていて、みんなを1時間も待たすなんてことしちゃ困る。

そこで一軒一軒の土産物屋を覗いちゃ、ぐずぐずしてる奴を見つけては、時間だぞ、早く行けっ、なんて追い出す。

 

 そうしたらある一軒の土産物屋での事、その店の親爺に、えれえおっかねえ顔されて

「センセー ヨケーナコトイワンデーナ!」

と食ってかかられたのにはたまげたな。(笑声)

なんデエ。京都の土産物屋は修学旅行生の財布で食ってんじゃねーか。(笑声) だったらその修学旅行生を引率してる先生には、十分に敬意を払うべきなのに、何だろね、あの言いぐさは。

でもまあ、こんなのはまれで、やはり京は千年の都で、大宮人の伝統を引き継ぎ、お店の人は丁寧な美しい京都弁で応対してくれる。

その中にあんな恥知らずの親爺がいるのは残念だな。

オンドレ マチゲーダゴド イワンガイイジ! ソンナアホナコトコキャガルト キョートノネウチガサガルゾナモシ! アキンドハアキンドラシク セニャナランダニ! ソーズラ!

なんて怒鳴りつけて、教育してやりゃよかった。(笑声)

え? 先生の言ってるのは何弁だって? そうさな、何弁だろ、先生にも分からん。(笑声)

 

<脱線千一夜 第107話>        


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