手品と金儲け

 

 科学の発明はまず戦争に使われる。ノーベルの火薬に始まって、飛行機、潜水艦、原子爆弾と人間を効率よく殺す道具として使われる。

じゃ、科学の反対、科学の反対って何だい? 

うむ。宗教か。極めてスタンダードな答えだな。

じゃ、1+1=2と言うのが科学なら、1+1=3てのは何だい。え? そんな事考える奴はバカだって?(笑声)

そうだな。数学の時間にこんな事やっちゃバカだな。

だけど、カラ箱の中にリンゴを初めに1個、次にまた1個、そうして、その箱の中から、リンゴを3個出したら一体何だい。

そうだな。手品だ。1+1=2と言うのが科学なら、1+1=3と言うのは手品だ。

この手品というのは、それ自身、見せ物として金儲けの手段だけれど、見せ物じゃなくて、相手を騙し、錯覚を起こさせたりしてお金を取り上げる、言うなればサギだがそんな事に使われる。

 

 落語でも有名な、ガマの油売りというのがある。

舌先三寸で下らない物を如何にもよく効く薬のようにして売る商売、商売じゃないな、サギだな。まず、ガマ蛙を紹介する。

これはそんじょそこらのガマ蛙と違って、筑波山麓の四六のガマだ。

その辺のは五六のガマで、四六五六はどこが違うかというと、両方とも後ろ足の指は六本だが、前足の指の数が違う。

四六のガマの方は四本で、五六のガマの方は五本。つまりこれは世にも珍しい四六のガマだ。と言うがもうここがインチキ。

ガマってのはみんな四六で、五六のガマなんか居ないそうだ。居たらそっちの方が珍しい。新種だから、大学で買いに来る。(笑声)

つまり、ガマなんか、何か汚らしいっていうか、いやったらしいっていうか、そんな物をよくよく観察してないから、へー、これが筑波山麓の四六のガマかなんて本気にしちゃう。

 

 この四六のガマを前後左右鏡張りの箱に入れると、ガマは自分の姿に驚いて油汗を流す。

それを集めて作ったのが、万能の薬のこのガマの油であるって言うんだが、そもそも、蛙のような両生類の目なんて物は人間の目のようによく見えるわけじゃない。

昔、先生の家で「かじか」と言う蛙を飼ってたことがある。先生がまだ小学校に行く前なんだけどな。

その蛙には餌として生きてるハエが必要なんだ。と言うのは、蛙には二つの物しか見えない。動いてる小さい物と、動いてる大きい物だ。

動いてる小さい物は、つまり餌で、口から長い舌を出して捕まえる。動いてる大きい物は、こりゃ敵だ。だから動かない。

以前にガマ蛙とネコとの喧嘩をみた。ネコは気味悪がって、ニャーニャー騒ぐが、ガマは落ち着いたもので平然としている。そのうちにネコの方で逃げて行っちゃう。

ま、そんなわけで、自分の姿にたまげて油汗を流すなんて、嘘っぱちだろう。

 

 でもこの後が見せ場で、抜けば玉散る氷の刃、日本刀を出す。そうしてこれこの通りこれはすごい切れ味だと、一枚の紙を二枚に切る。二枚の紙を重ねて四枚に切る。

そうして四枚が八枚。八枚が十六枚。十六枚が三十二枚。三十二枚が六十四枚。六十四枚が百二十八枚。等比数列って奴だな。(笑声)

まあ、こんな事なんか言って刀の切れ味をお客に見せる。

所がこんなに切れる刀が、このガマの油をつけると全然切れなくなって、頬にぐいぐいと擦りつけても、全く切れない。

この通り不思議な効き目があると言って、いかさま薬を売りつけるって算段だ。

勿論こりゃ手品で、紙が次から次に切れる刀で、頬を擦れば怪我しちゃう。

タネの見当はつくか? ほい。そうだよな。刀に仕掛けがあって、先の方に5センチぐらいはよく研いであるが、後は丸くなっていて、刃はない。

だから紙を切ろうとすれば先の方、頬を擦るときは安全な下の方で、手品とすりゃ簡単な方だ。

 

 こんなのに比べると丁半バクチというのは、かなり高度なテクニックを必要とする。

サイコロの目で勝ち負けを決めるんだけど、みんなの中にも知ってる物もあるだろうが、「丁」と言うのは丁度二で割り切れると言うので偶数のこと。「半」と言うのは二で割ると半端が出るというので奇数のこと。

所が、つまり博徒、博打打ちのヤクザ者なんかは、ただ勝ったり負けたりして、僅かのテラ銭だけじゃ、大して金儲けにならない。

そこでお客に少しばかり餌を食わせて、つまり儲けさせて、夢中にさせ、うんと大きく張った時に取り上げる。

その為に、自分の思ったとおりの数を出すサイコロを使う。そうだ。知ってた者いたな。鉛玉仕掛けという奴だ。

サイコロの目の中で1の目は他のに比べると大きい。ここがミソだ。つまり1の目の所から彫って入って中をガランドウにしちゃう。

そうしてその中に小さい鉛の玉を入れて、重心をずらして決められた目しか出ないようにするんだ。つまり、1の出るサイコロは1だけ出て他の目は出ない。2の出るサイコロも2だけ。

そんなわけで、そっくりな7つのサイコロで一組になってる。

一つは当たり前のサイコロで、重心が真ん中にあって、いろいろの目の出る奴。後は、1だけ出る奴。2だけ出る奴。3だけというので、この7つのサイコロを自由自在に取り替えて、自分の思ったとおりの目を出すわけだ。

 

 まあこのほかトランプにしろ麻雀にしろ花札にしろ、夢中になってるお客の目をごまかして手品をやって、金を取り上げるのは、奴さん達の商売だ。

そうして、決して始めから無理して取り上げようとしない。ある程度、飴しゃぶらして、バクチってのはこんなに面白いもんかと思わしてから、じわりじわりと絞りにかかる。

途中でやめようとしても、やめさせない。

そこが博徒はつまり暴力団と言うわけで、恐喝し、脅迫してとことんまで絞り上げる。

先生の家の近くにも、相当の財産家の篠さんと言う家があったが、お父さんが亡くなったので、それまで仕方なしに言うこと聞いてた息子が、さあ俺の代だとばかりに羽を伸ばし始めた。

バクチ場に出入りを始める。いくらか勝ったりして、面白くてならない。

背筋がゾクゾクするようなスリルを感じるのは堪らない。万引きするときと同じだ。(笑声)

いくらか負けて、土地を売ったりした時など、あれっぽっちの土地なんか、俺の身上に比べりゃ、半紙に針を刺した穴くらいなもんだと豪語してたらしいね。

所が、それから1〜2年でさしもの財産も、全部人手に渡ってしまった。

最後に行き着く所はホームレス、つまり乞食になっちゃったとのことだ。まあ、こりゃ明治の頃の話だがな。(笑声)

 

 今でも、競輪競馬に夢中になって、家庭が崩壊し、ホームレスという例は、数え切れない位あるらしいナ。

とにかく、ゾクゾクするようなスリルを感じるのは堪らないってのは駄目だ。万引きやカンニングみたいにナ。(笑声)

 

<脱線千一夜 第112話> 


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