麒麟(キリン)と獅子(シシ)
「キリン」に二種類あるのを知ってるな。
一つは動物園にいる首の長い動物。もう一つはキリンビールの印にある、変わったカッコしてる馬と言うか鹿というか、まあ、そんなもの。
無論、想像上の動物で、こんな現実にはない物には他にも色々あるが知ってっか?
うん。竜があるな。竜は想像上の動物なのに、図々しく十二支の中にまで入り込んでる。ほかには?
鳳凰(ホウオウ)か。これも想像上の霊鳥で、京都に修学旅行に行った時には、あちこちでお目にかかったな。ほかには?
河童(カッパ)か。(笑声)こいつも想像上の動物だが、竜や鳳凰(ホウオウ)と違って、修学旅行じゃお目にかからなかったな。(笑声)
川に行って遊ぶと、溺れたりして危ないって訳で、河童(カッパ)に捕まってキモを抜かれるって、親が子供をおどかし、家で宿題をやらせようと言う算段だ。(笑声)
え? キモを抜くって何だって?
キモって言葉は「驚いてキモを潰した」とか「あいつはキモっ玉がず太い」なんて言葉があるな。
キモっ玉ってのは、そうだな、知ってた者いたな。胆嚢って言う小さい袋だ。
肝臓で作った消化液の胆汁をここに一時ためて、十二指腸に送り出すので、勿論、人間にはあるが、これが無くて、いきなり肝臓から腸に送り出してる動物も多い。
馬とか鹿なんかがそうだ。続けて読むと面白いやな。(笑声)
ま、この胆嚢の中には消化液が入ってるのだが、昔の人は色や形から、何かしら神秘的な物を感じて、魂が入ってるように思ったのだろう。
河童(カッパ)や馬鹿はこの辺にして、麒麟(キリン)に戻ると、そもそもの麒麟(キリン)と言うのはキリンビールの方のキリンなんだな。
仏教に関係あるらしくこのキリンたるや、一切の殺生をしない。
動物ばかりか植物も食べない。とにかく徹底していて、草が生えてる所は歩かない。草が踏まれて可哀想だって訳だ。(笑声)
イジメなんかやってる奴等に、爪の垢を煎じて飲ませてやりたい位だな。
超博愛主義者って言うか、人間じゃないから超博愛主義動物だ。
所で、この聖獣の麒麟(キリン)の現れるのは、人類社会に聖者が出現する前との事だ。
聖者と言えば、キリスト、孔子、シャカ、我が日本でも聖徳太子なんかも入るだろう。
その他、ソクラテス、マホメット、堯、瞬と多々あるが、近年とんと聖者なんて現れたことがない。
これは、この麒麟(キリン)が地球を見限ってるからかも知れないからな。
あっちでもこっちでもドンパチ騒ぎ、自分勝手な理屈を付けては他国を侵略して、一度戦争に勝って相手国を占領したら、徹底的に居座って、相手国に金をうんとこさ出させて、あっちこっちに基地を作る。
憲法に違反するのに軍隊作らして、合同演習なんかの時には、ツカイッパやらせたりするってえな、図々しい国があるのは、みんなもよく知ってんナ。(笑声)
所で麒麟(キリン)じゃなくって、英語で「ジラフ」って言う首の長い動物に、なんで「キリン」て名が付いたのだろうね。
こりゃ先生の想像だから当たってるかどうか分からないけど、麒麟(キリン)と言う聖獣が居ることを本かなんかで読んだか、話に聞いてたかしてた人間がアフリカでジラフを見て早合点をして、こりゃおったまげた、これこそ聖獣の麒麟(キリン)に違いないって思ってそんな名が付いたんだろうよ。
でも、いささか観察眼に不足してるな。麒麟(キリン)は博愛主義者で生きてれば草すら踏まないが、ジラフの方は長い首で高い木の葉をムシャムシャ食うんだから、聖獣には程遠いのにな。
所で、さっきは出なかったが「獅子(シシ)」ってのも、想像上の動物のような気がするんだが、どうだろう。
つまり、獅子舞の獅子だな。
説によってはライオンを図案化したものと言うのもあるが、百獣の王なんて言っても、虎や豹、それから群をなして狩りをする狼などの方が、ライオンよりも凄みがある。
ライオンの雄なんて、かっこはいいけれど、全然グズで雌に養って貰ってるんだ。つまり、俗に言う「ヒモ」って事なんだな。(笑声)
働きがいのある、つまり、甲斐性のある雌をナンパして捕まえて、(笑声) 2匹で狩りに行く。
シカやシマウマのような草食獣の群を見つけると、雌は風下側に回って行き、雄はわざわざ風上側に行く。なぜ風上に行くかというと、オイダシガカリなんだ。
だんだんと群に近づくと、群では恐ろしいライオンが来たというので、逃げようとする。その時に大きい声で吠えながら追いかける。
勿論、チーターなんかと違ってノロマだから、(笑声) 追いつけっこ無いが、群を混乱させるのには役に立つ。
混乱しながら逃げてくる群を待ち伏せしてたのは雌ライオンで、逃げ遅れた奴をここで捕まえる。尤も必ずしも巧くいくってもんじゃない。それこそ何回も何回もやって、ようやく成功するってなもんだろう。
だから餌を食う段になると、まず、雌や子供、そこに雄がノコノコ入り込んでいくと、雌が怒って、「アンタミタイナグズハ、マダマダヨ。コチトラ、アサカラハシリマワッテ、ハラペコナンダカラ。ミンナガタベオワルマデ、マッテナ」なんて怒られるってな事を聞いた事がある。誰かんちのお父さんとお母さんミテーだな。(笑声)
所で、獅子は子を千尋の谷に投げ落として、そこから這い上がって来た子だけを育てるなんて話があるのは知ってんな。
百獣の王になるからには、生まれたばかりでトテツもない試練に立ち向かわなけりゃならんと言うわけだが、どうもこりゃアフリカに住むライオンじゃなくって、空想上の百獣の王の獅子の事らしい。
何故かっていうと、ライオンの住んでいるサバンナには、千尋の谷ってのはないからだ。(笑声)
親が突然に子に対して乱暴になるって事は、昔から人間が動物社会を見ていて知ってたので、こんな話が出来たのだろう。
怪我をして、そのままでは死んでしまう動物を、助けてやって介抱し、再び、厳しい自然で生活できるように面倒を見てやると言う、研究所か役所かのテレビを見たことがある。
骨が折れて飛べなくなってしまった鳥の怪我を治し、餌を自分で取れるように訓練した後で、最後の訓練と言うのがあるそうだ。
おや、お前、見て知ってたか。そうだな。「人間を怖がらせる」という訓練だ。今迄可愛がって面倒を見てた鳥を、今度は徹底的に虐(いじ)める。
尤も、それで怪我さっしゃ元の黙阿弥だから、怪我はさせないようにして、うんと虐めるんだ。この辺は素人には出来ない。やはり、動物学者だな。
鳥の方じゃ、今迄よく面倒を見てくれた人間が、突然、メチャメチャに意地悪する。何が何だか分からない。
おじさーん。おじさーん。オレだよ。オレだよ。突っつかないでくれよ。頼むからってばサー。何、間違えてんだよ。気が狂っちゃんたんかよー。(笑声)
鳥からすりゃ、人間が突然に発狂したとでも思うだろうな。(笑声) とりあえず逃げて、少し経ってから、そーっと見に来る。もう、発作は治まっただろうと思ってな。(笑声)
そうすると、又、来やがったぞ。バカ鳥メ。ソーラ追い出せ!
またまた発作が起きる。(笑声) これが何回か繰り返されると、さすがに鳥も、あの日を境に人間は気が狂っちゃったっんだ、目の吊り上がり方は、尋常一様じゃねえ。(笑声)
腹減って仕方ねえが、人間はもう餌くれねえから自分で探すべえなんて、シカタナクナク山へと帰る。
可哀想な気もするが、これが最後の訓練で、人間というのは怖いものだという気持ちを植え、野生に戻して独立させると言うことだ。
動物が子供を育てるときもそうらしい。
生まれたばかりの赤ん坊は、親の愛情を受けて、いろいろと世話をされ、なんとか一人前に成る。
そうすると、驚いたことには、親たちは子供についてのそれ迄の記憶を一切失ってしまうんだな。
何でこんな変な奴が俺達みてえな仲のいい夫婦の間に入って、デケーつらをしてやがるんだ。(笑声)
子供の方じゃ、親が気が狂ったとしか考えられない。でも、一瞬にして子供のことは、親のメモリーから消去されちゃってるんだから、(笑声) ぐずぐずしてると食い殺されてしまう。
そこで、独り立ちして、餌は自分で探し、武者修行の旅に出るといった塩梅だ。
素敵な配偶者を求めてのナ。(笑声)
<脱線千一夜 第130話>
前へ戻る メニュー 次へ進む