山の神

 

 まだみんな未成年だけど、やがて成人すりゃ、殆どの者は結婚するだろう。

男の子は奥さん貰うし、女の子は奥さんになる。

アタシ独身主義だから、一生結婚なんかしません、男になんか全然関心無いわ、なんてのに限って一番先に結婚しちゃうんだな。「好き好き、あんた大好き、一生離れないわ」なんて言っちゃって、一生結婚しないが、一生離れないに変わっちゃってナ。(笑声)

 

 まあ、そこで、この奥さんてえのは、別の呼び名で「山の神」って言う。知ってた者手上げて。みんな知ってるよな。

「昨日の晩、大学の友達に会ってさ。駅前の飲み屋で飲み過ぎちゃってさ。ベロンベロンになって家に帰ったのが午前様。家帰ったラサ。マア、山ノ神、角ダシテ、ヒデエ目にあったよ」なんて使い方する。

所で奥さんのことを何で「山の神」なんて言うのか分かるかな。こりゃ難しいか。

 

 これはイロハ歌に関係がある。「ヘチマ」と同じだ。

「唐瓜」の「と」が

イロハニホ「ヘ」『ト』「チ」リヌルオ

のように「ヘ」と「ち」の間、つまり間(ま)にあるから「へちま」って言うんだな。

そこでこの歌のもっと先を見る。

ワカヨタレソ ツネナラム

ウイノ「オク」『ヤマ』ケフコエテ

と言ったわけで「おく」の次が「やま」になり、「やま」は「おく」よりも一段上位にあるって事になる。

そうなると「奥さん」や「奥様」よりも「山さん」とか「山様」のほうが一段と上位になると言うわけだ。(笑声)

だけどこうなると、「さん」や「様」じゃバランスが取れない。低すぎる。どうせなら神様にしちゃえ、てなもんで「山の神」が出来上がったとのことだ。(笑声)

 

 こんな訳で、夫婦の内で妻が「山の神」なら夫は何だろうね。

夫は一家の家長だから、家族の為に、一生懸命に働かなけりゃならん。

働くときのかけ声は何て言うかね。「よいしょ」とか「こらしょ」とか「どっこい」とか言うな。

「どっこい」が問題だ。「夫」が「どっこい」って言うんだから「オットドッコイ」になる。(笑声)

 

<脱線千一夜 第138話>


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