ガラガラ空きとギューギュー詰め

 

 電車に乗ると携帯電話の使用はご遠慮くださいとの車内放送がある。

これは普通のおしゃべりと違い、電話の時は耳元で声がするから、つい自分の声も大きくなってしまう。

それに、普通の受け答えの話と違って、一方だけの声を聞くんじゃ、とても不自然で、神経を刺激されるからだそうだ。

「え? そうか、じゃ明日にすっか。右側だな。ハハハハハ。エ? バカ言うなってんだ。そっちがそうだろ。こないだも、そうだったんじゃねえか。また、始めやがった。何だと、うるせえナ! テメエ死ネ!」(笑声)

なんてんじゃ、「うるせえ」なんて言ってる奴の方が、よっぽどうるせえ。(笑声)

  

 所でこの間、小金井から池袋に帰ってきたときの話。

小金井で電車に乗ったら、なんと1ハコに先生1人。今迄1ハコに2〜3人と言うことはあったが、1ハコ1人というのは珍しい。

みんなの中で1ハコ1人という経験した者いるか。いないか。そうだろうな。

これじゃJRは潰れちゃうだろうが、よくしたもので、途中からどんどん乗ってくる。

 

 所で、先生の座ったところは、7人掛けのサイドシートの一番右、他の所は半分くらい埋まったが、先生の座っていたシートは、一番左に一人座っただけで後は空いていた。

つまり 7−2=5 で5人分の席が空いていた。

ある駅に着いたら、ドカドカっと大勢お客が乗り込んできた。

真っ先に飛び込んで来たのは、女子大生の6人組、先生の隣の席がずらっと空いてるので、しめたっとばかり座った。でも席は5つしかない。

つまり 6−5=1 となって一人半端が出る。そこで一番後から乗った子はそこには座れないので、仕方なく、向かい合わせの席に座った。と、ここまではなんの変哲もない当たり前の話である。

 

 所が、この連中が物凄いお喋り人間で、先生の並びの5人の子が面白そうに学校の話を始めたら、向かいの席に座っていた子が、一人じゃつまらないってんで、立ち上がって他の連中の前に来て、一緒になってお喋りを始めた。

始めはそれ程大騒ぎじゃなかったが、そのうちに、去年ダレソレの単位は落とっしゃったから、また今年やらなけりゃならねえ、必修だから何とか取らなきゃならんが、アイツのツラ見ただけで頭に来ちゃうだの。(笑声) ナントカはたいてい単位くれるからアイツのをとりゃいい、去年一年間に2回しか授業でなかったが、それでも、うかっただの。(笑声)

6人も仲間がいるから、自分達の天下、他のお客のことは全然気にならなくなっちゃうらしい。

車内での携帯電話のご使用はご遠慮下さいなんて言ってても、ありゃ携帯電話の何十人分かだ。(笑声)

 

 幾らか離れてる所に空席があったから、そっちに替わろうかなと思ったが止めた。

なんでかって言うとな。こっちが立って別の席に行けば、こりゃいい塩梅だと、今、立ってる奴が、そこに座るに決まってるんだ。

こんなヤツバラの都合の良いようになんかやってなんかやるもんかって訳で、そのウルサイ席で我慢して座っていた。(笑声)

ああなったらもうイジだな。(笑声)

ギャーツクギャーツク騒いでたそいつらは、大宮で6人の内3人降りた。やっと助かった。それ迄は自分達の世界で、他を振り返る余裕のない奴等だったが、人数が減りゃそれなりに大人しくなる。

更に浦和で2人降りた・・・らしい。らしいと言うのは、ギャーツクギャーツク騒いでる奴等の隣にいたんで、急に静かになったら、ウトウトってしてきたんだ。(笑声)

だから赤羽で停まった時は覚えていない。・・・・・・・・

 

 突然にガラガラっと音がしてドアが閉まったので、はっとした。窓の外を見たら池袋。ギョ!(笑声)

降り損なっちゃった。シマッタシマッテシマッタ[仕舞った閉まって終った](笑声)

以前は池袋止まりだったが、今は新宿湘南ラインというのになって、東海道線や横須賀線に乗り入れている。この電車は大船行きだ。

電車はそのまま目白、高田の馬場、新大久保と停まらずに走っていく。

新宿についてそこからバックと言うことになるが、山手線だと各駅だから、途中はすっ飛ばすのに乗ろうと思って埼京線のホームに行った。

 

 そうしたら大混雑、丁度ラッシュアワーだったんだ。

混んでる電車に乗ったら、更に次から次に乗客が来て乗り込み、大大大の大混雑でギューギュー詰め、反対側のドアの所に押し付けられた。

小金井の時の1ハコ1人の全く反対で、アレじゃJRは儲かってしょうがないだろう。

でも、サーテ困ったこんなにギューギューで、次の駅でうまく降りられりゃいいがなと思ったが、人の心配をよそに電車はさっきの逆で新大久保、高田の馬場、目白と走って行く。そうして池袋のホームに滑り込んでいった。

 

 所が「案ずるより産むは易し」てな事は、このことナンメリてなもんだろう。

池袋じゃ開くドアが、新宿の反対だったんだ。(笑声)

降りるも降りないもない。ドアが空いたトタンに、跳ね飛ばされるようにホームに弾き出されちゃったよ。(笑声)

 

<脱線千一夜 第148話>


前へ戻る
メニュー
次へ進む