まんじゅう怖い

 

 「まんじゅう怖い」って落語は有名でみんな知ってるな。

俺は怖い物はない、蛇だろうと、毛虫だろうと、蜘蛛だろうと、山程ある数学の宿題だろうと(笑声) 怖い物はない。そんなもの、へいちゃらだって威張る奴がいた。

じゃ、お前は何が怖いかと聞き出したら、何と「まんじゅう」が怖い。まんじゅうを見るとヒキツケが起きる。(笑声)

だから和菓子屋の前は通らないようにしていて、どうしても通らなけりゃならなけりゃ、目をつむって駆け足で通る。

ナーンテ事を言ったんで、悪友達が、アイツは何時も威張っていやがって気に障るから、懲らしめてやろうと、その威張り男が昼寝をしてる時に、部屋の中に沢山のまんじゅうを置いて様子を窺っていた。

 

 やがて、そいつが目を覚ましたらしく、「ギャーッ!!」と大きい悲鳴が聞こえた。(笑声)

シメシメ旨く行ったぞ。これでアイツ、幾らかこたえるだろうと思っていたが、その後「シーン」としている。ヒキツケ起こして暴れ回ってるような様子はない。(笑声)

こりゃ大変だ。アイツ、あんまり怖いんで、死んじまったんじゃねえか。アンコで殺したんだからアンサツ(暗殺)だ、なんて洒落を入れたりしてな。(笑声)

心配して戸を開けたら、何とそのまんじゅうをムシャムシャ食ってる。

「怖いから早く食べて無くしちゃおうと思った。」なんて言ってるから、

「ウソをつけ。お前が本当に怖い物は何だ」と聞くと、

「熱いお茶が一杯怖い」なんて言う落ちだけど、みんなだったら食い意地が張ってるから、さしづめ

「揚げたてのでかいエビが3本位乗ってる特特上の天丼が怖い」なんてでも言うんだろう。(笑声)

 

 所で今の落語とは違って、本当にあった「まんじゅう怖い」って言うのがある。

今から百何十年か前の維新前夜、長州藩の奇兵隊の中の力士隊のある男に、突然お殿様からお呼び出しがかかった。何と言うお呼び出しかというと、

「まんじゅうを作りに来い!」(笑声)

みんな笑ってるが、こりゃ本当の事らしい。そこでお城にまんじゅうを作りに行ったが、そのままで帰って来ない。つまり、お殿様に拉致されてしまった。(笑声)

家族の者が心配してお城に聞きに行っただろうが、殿に対して拉致とは失礼な、その様なことを申すと、ただでは済まさぬぞ、なんて塩梅に門番から脅かされただろう。

以前の○○○みたいにな。(笑声)

 

 尤も長州と言う藩は忍者の集団で、拉致や暗殺なんか日常茶飯事、殿様だって邪魔になれば殺してしまうと言う荒っぽい所だ。

だから余計な事言って家来に憎まれたら殺されるって訳で、

「殿、この件はこのように致しますが如何なものでしょう」なんて聞かれたら、絶対に意見を言ったり反対したりはしない。「そうせい」と言う。

何を持っていっても「そうせい」だから、殿様は「そうせい侯」と言われたそうだ。(笑声)

拉致された「まんじゅう男」は(笑声) その後、手紙が来たか人づてに伝えられたかは知らないが、江戸に行くと言う事なので、家族は彼が生きてる事だけは分かった。

 

 さて、この「まんじゅう男」は誰だか見当ついた者いるかな。

そうだな。その通り、大室寅之祐で、明治天皇になった男だ。

「まんじゅう男」なんて教室で言ったりすりゃあ、戦前だったら憲兵がやって来てしょっぴかれ、不敬罪で死刑だ。

 

 所で、この頃は暗殺が沢山あって、坂本竜馬、佐久間象山、井伊直弼を始め寺田屋事件、池田屋事件、大勢の志士が志し半ばで殺された。

ある話によると一流の人物はみんな死んでしまって、生き残った伊藤、岩倉、大久保、西郷、勝、慶喜、木戸なんかは二流品だそうだ。

だから世界にも珍しい天皇制原理主義を作って、国民を奴隷のようにして戦争にかり出し、油がないのに産油国に喧嘩を売って、原子爆弾の実験に使われて酷い目に合う元を作ったなんて話もある。

 

 暗殺された者の中には徳川将軍が一人、天皇陛下が二人いる。犯人はと言えば、今言った二流品の明治の元勲達だな。

第一人目は徳川家茂、これは薬殺らしい。

第二人目は家茂の義理の兄貴の孝明天皇、この男は誰に吹き込まれたか、外人は鬼の一種だと思いこんでる徹底した攘夷論者で、先祖が決めた鎖国を守り抜かないと駄目だと強情を張る。

世界の趨勢から言って、そんな事を何時までも言ってたら、日本は滅んで仕舞うと、これは愛人の家でトイレに行った時に槍で刺殺。

孝明が死んだのでその息子の睦仁親王が新しい天皇になった。これが明治天皇その1。言うなら「京都明治」。

 

 所がこの男は何とも出来の悪い奴。

禁門の変の時に大砲の音に吃驚(びっくり)して気を失ってしまったと言う腑抜け男で、毎日、女官達とゲームをして遊んでたと言う他愛のない人間。

え? 毎日、女と遊んでられるなんて羨ましい? (笑声) まあ、それで済むなら、それもいい一生だろうがな。

でも、これじゃあ、この国難、国家存亡の危機にどうしょうもないってんで殺されちゃった。

何やら話によると猿を使ってな。長州は忍者の藩だから、猿なんか使える者がいるのだろう。手を引っ掻かせて、傷口を作り、そこに暗殺者グループの医者が、毒を塗って殺してしまったらしい。これが第三人目。

死体は仏像を運び出すふりをして、御所から持ち出したらしい。

 

 人間と仏像と入れ替わる話は、江戸川乱歩の怪人二十面相の話にもあるな。

二十面相が国宝級の仏像を盗み出し、隠れ家で大きい箱を開いてみると、確かに素晴らしい仏像で人間そっくり。

当たり前だ。明智探偵の弟子の小林少年が、体に絵の具を塗って座ってるんだから。(笑声)

そればかりじゃなく、その仏像の手に握られているピストルが、二十面相を狙っているって話だが、読んだ者もいるだろう。そうだな。何人か知ってるな。

 

 さて、これで明治天皇その1、つまり「京都明治」の替え玉になったのが、大室寅之祐の明治天皇その2、つまり「東京明治」だ。ここで都を急いで京都から東京に移したってわけだな。

女みたいなフニャフニャ男の睦仁親王が、突然に、馬上ゆたかに大声を張り上げ官軍の兵士を閲兵する偉丈夫に変身したんじゃ「ウルトラマン」や「仮面ライダー」はだしだ。(笑声)

伊藤や岩倉達が幾ら図々しくても、大室寅之祐を京都に置くと、いろんなボロがばれるってんで、いきさつを知ってる者達なんかには、皇族にしてやったり爵位を呉れてやったりして味方につけ、引っ越して東京に維新政府を作ったんだな。

でも、人の口には戸は建てられないと言う。この秘密は一部の人達に話題になり、寅之祐の家族にも彼が「東京明治」になったと伝えられた。

まあ、一般の国民に取っちゃ今迄一番偉かったのは公方様(徳川将軍)、それが今度から天子様(天皇陛下)に変わっただけで年貢(税金)が減る訳じゃない。

殺そうと殺されようとブタだろうとキリンだろうとライオンだろうと関係ないってもんだろうな。(笑声)

 

 そうはいっても、これは国家の大機密、「天皇は神聖にして犯すべからず」だから、迂闊(うかつ)なことを言ったらどんな目に合うか分からない。

実際に寅之祐の兄貴の所に、明治新政府の役人が聞きに来たそうだ。

「お前の弟に寅之祐と申す者がいたとの事だが、今どうしておるか」なんてな。

その時に寅之祐の兄貴は「さあ、どこに行ったか分かりません」とシラを切ってしまったらしい。

後で聞いた所によると、もし、知ってたら、殺してしまうように伊藤や岩倉達から命令されていたとのことだ。

つまらん事を言ったら命がなかった。

 

 「まんじゅう作れって言われて行きやしたが、そりゃ止めたらしく、今、天皇陛下って商売やってるらしいですがな。(笑声) 髭生やして偉そうな服を着込んで白い馬に乗っちゃって、あんな事やって、日当は幾らくらい貰えるんですかね」

なんて事言ったりしたらな。(笑声)

 

<脱線千一夜 第161話>


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